《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene11「答えのない問い」

 夕暮れの音楽室。
 カーテンの隙間から漏れる光が、ピアノの鍵盤を細く照らしていた。

 文化祭が終わってからというもの、放課後のこの時間はいつも大和と一緒だった。
 歌詞を書いたり、音を合わせたり。
 当たり前のように積み重なっていた時間――

 けれど、今日はその隣に彼の姿はない。

 麻里奈はひとり、椅子に腰を下ろし、開いたままの楽譜をじっと見つめていた。

(なんで……)

 問いかけても、返ってくるのは静寂だけ。

 昨日まではちゃんと笑ってくれた。
 「また放課後な」って、いつも通りの声で言ってくれたのに。
 今日の大和は、まるでどこかへ閉じこもってしまったようだった。

「……私、なにか変なこと言ったっけ」

 思わずこぼれた声が、しんと静まった部屋に溶けていく。

(文化祭、すごく楽しかった。
 大和くんとステージに立って、同じ景色を見られて……)

 ほんの少しずつ、心が近づいている気がしていた。
 でも、それは私だけの思い込みだったのかもしれない。

「……歌、また一緒に作りたかったな」

 指先が、楽譜の余白をそっとなぞる。
 そこに続くはずだった言葉は、まだ何も書かれていない。

 書けない。
 いまのままじゃ、大和のメロディに触れるのが怖かった。

(ねぇ、大和くん。どうして話してくれないの?)

 沈黙のなかで、胸の奥がゆっくりと締めつけられていく。
 声を出せば涙がこぼれそうで、麻里奈は強く唇を噛んだ。

 窓の外で夕陽が沈む。
 オレンジ色の光が少しずつ弱まり、音楽室には影が落ちていく。

「……今日は、もう帰ろう」

 小さくつぶやいて、椅子を引く音が静かに響く。
 ドアノブに触れる手が、思っていたより重かった。

 廊下に出た麻里奈の背中は、夕闇の中へと小さく溶けていく。
 その足音が消えたあと――
 音楽室には、ページが閉じたあとのような静寂だけが残っていた。
 
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