《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene13「知りたくなかった噂」

 朝の光が教室の窓から差し込み、いつもより白く感じられた。
 麻里奈はカバンを机に置き、深く息を吐く。
 週明けの月曜日。週末のあいだ、頭の中はずっと大和のことで占められていた。

 ──あの笑顔も、距離さえも、夢みたいに遠ざかっていく。

「ねぇ、聞いた?」

 隣の席から、何気ない会話が耳に飛び込んできた。

「大和くん、スカウトされたんだって。芸能プロの人に」
「マジ? 文化祭のステージでめっちゃ目立ってたもんね」
「見学に行くらしいよ。すごくない?」

 ほんの数秒の会話。
 けれど、麻里奈の胸の奥で、なにかがはっきり音を立てた。

(……芸能プロダクション……?)

 言葉が何度も反響する。
 視線を落とすと、膝の上の手がぎゅっと握られていた。

 ──どうして? 私、知らなかった。

 あの日、ふたりで作った歌。
 何度も音を合わせて笑い合った時間。
 ステージの光の中で、同じ未来を見ている気がしたあの瞬間。

 それら全部が“この先”につながっていると信じていた。

 でも――大和は、その先をひとりで歩き出していた。

(……私は、大和くんの隣にいたはずなのに)

 その距離が、急に遠くなる。
 胸がきゅっと締めつけられて、息を吸うのも苦しかった。

 ちょうどそのとき、教室の扉が開いた。
 大和が入ってくる。

 ざわつく空気の中、周囲の視線が一斉に彼へ向く。
 彼は何も言わず、静かに席へ向かって歩いていった。

 その背中を見つめながら、麻里奈の心臓がもう一度強く脈打つ。

 ──聞きたい。聞きたいのに、聞けない。

 喉の奥で言葉がつかえて出てこない。
 ただ、ノートの端をじっと見つめるしかなかった。

 胸の奥でじわりと広がる不安と寂しさ。
 それは――知らないうちに育っていた“期待”の裏返しだった。

 
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