《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene14「どうして言ってくれなかったの」

 秋の風が、夕暮れの校舎裏を静かに吹き抜けていく。
 部活帰りの生徒たちの声が遠ざかり、人気のないその場所に、麻里奈の小さな声が落ちた。

「……どうして、言ってくれなかったの?」

 背中を向けていた大和が、ぴたりと足を止める。

「芸能事務所からスカウトされたって……どうして、私、他の人から聞いたの?」

 麻里奈の声は、かすかに震えていた。
 怒っているわけじゃない。
 ただ、“信じていた想い”が崩れていく音が胸の奥でして、止められなかった。

「大和くんは、夢を叶えようとしてる。
 なのに……なんで、話してくれなかったの?」

 大和は、黙ったまま振り向かない。

――あの日、見てしまった。
 麻里奈が榊と話しているところを。
 笑って、うなずいて、何かを交わすような視線。

(……俺には、関係ないだろ)

 そう思おうとした。
 でもできなかった。胸の奥で疼く痛みは、消えてくれなかった。

「別に……話すことでもなかったし」

 絞り出したその言葉に、麻里奈は小さく息を呑んだ。

「……そうなんだ」

「どうせ俺がどこ行こうが、誰と会おうが、お前には関係ない」

 ぶっきらぼうな声。
 その背中に、麻里奈は思わず一歩、踏み出した。

「あるよ。あるに決まってる。私は――」

 声が詰まる。
 あと一歩が怖い。
 それでも、どうしても伝えたかった。

「……応援したかった。ちゃんと、“大和くんの夢”を知って、隣で応援したかったのに」

 沈黙が落ちる。
 夕陽の影が長く伸びる中で、大和はようやく振り向いた。
 けれど、その目はどこか遠くを見ているようだった。

「……ごめん」

 それだけを残して、大和は歩き出す。
 麻里奈の横をすり抜ける瞬間、喉の奥で言いかけた言葉が震えた。

(違う。本当は――)

 でも、口には出せなかった。

 背中を追う麻里奈の視線に、大和は気づいていた。
 けれど、立ち止まることはできない。

――好きだなんて、言えるわけない。
 お前が、誰かの隣に立ってるところを、見たばかりなのに。

 風が吹いた。
 夕陽の中で、ふたりの距離だけが、静かに伸びていった。
 
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