《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene17「それぞれの未来へ」

 夕方のホームには、夏の終わりの風が吹いていた。
 電車のドアが開くまで、あと数分。

 大和は小さなバッグを手に、線路を黙って見つめていた。
 スカウトされたプロダクションのレッスンは、今日から。
 あの日のすれ違いから、麻里奈とは――まだ、ちゃんと話せていない。

 それでも、これでいい。
 そう自分に言い聞かせるように、ひっそりと息を吐く。

 ふいに、ポケットの中でスマホが震えた。
 画面には「鈴木麻里奈」の文字。

 大和は、指を動かさなかった。

「……ごめん。もう、進まなきゃいけないから」

 小さくつぶやいたその瞬間――
 階段を駆け下りる足音がホームに響いた。

 麻里奈だった。
 風になびく髪。肩で息をしながら、必死に周囲を見回している。

 けれど――その視線が大和を捉える前に、ドアが閉まった。

「……大和くんっ!」

 ガラス越しに聞こえた気がした。
 大和は反射的に振り返る。

 涙をこらえながら手を振る麻里奈。
 思わず手を伸ばしかけた。

 ――でも、もう届かない。

 列車が動き出し、彼女の姿が少しずつ遠ざかっていく。

 ――なのに。

 次の駅で、大和は降りた。

 改札を抜け、反対ホームへ走る。
 戻った駅の端の待合室。
 そこに、麻里奈がぽつんと座っていた。

 目が合った瞬間、彼女は息をのむ。

「……降りたの?」

「……もう一度、ちゃんと話したくて」

 ふたりは少し距離を取りながら、真正面から向き合った。

「どうして、何も言ってくれなかったの?」

 麻里奈の声は震え、痛みを含んでいた。

 大和は俯き、ゆっくりと言葉を探す。

「……榊のこと、見たんだ。
 お前が断ったのも、わかってた。
 でも……それでも怖かったんだ。
 話したらまた、すれ違うかもしれないって」

 麻里奈の瞳に涙がにじむ。

「……話してくれなきゃ、分からないよ……」

 大和は深く息を吸う。

「……でも、もう止まれない。
 ここまで来たからには……前に進みたい。
 俺、自分の夢を……ちゃんと叶えたいんだ」

 静かな声だったが、まっすぐで揺るぎなかった。

 麻里奈は、こらえるように笑う。

「うん……分かってる。私も頑張るから」

 ほんの数秒、ふたりの時間が止まる。
 だが、列車の到着を告げるアナウンスがその沈黙を終わらせた。

「……行くね」

「……うん。……頑張ってね、大和くん」

 笑顔で手を振る麻里奈。
 涙でにじむ視界の中でも、大和は小さく手を振り返す。

 扉が閉まる直前、ふたりの視線が静かに重なった。

 ――「また、どこかで」

 言葉にしなくても、胸の奥で確かに交わされた想い。

 電車が走り出す。
 夕焼けの空を切り裂きながら、未来へと進んでいく。

 
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