《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene18「それぞれの空の下で」

 まぶしい照明が、ステージのように視界を包んでいた。
 スタジオの中、カメラの赤いランプが点灯する。

「カット! いいね、大和くん。感情の入り方がすごく自然だ」

 監督の声に、スタッフたちが拍手を送る。
 けれどその中心で、大和は微笑みながらも、どこか遠い目をしていた。

(……自然、ね)

 演じるたびに、少しずつ“本当の自分”が薄れていく。
 台詞を覚えることには慣れた。
 でも胸の奥ではずっと――何かが足りなかった。

 歌も、リズムも、あの瞬間の熱も。
 ライトの中で交わした視線も、今は遠い幻のようだ。

 マネージャーが資料を手に近づく。

「次のドラマ、主演オーディション通ったよ。事務所も力入れてるから」

「……そうですか」

 口元で笑う。それが“正しい答え”だと知っているから。

 控室に戻ると、大和はカバンの中から古びたノートを取り出した。
 擦り切れた表紙。折れたページの端に、小さく記されたタイトル。

――《Twilight Notes》

 麻里奈と一緒に作った、たった一つの歌の記録。
 ステージの熱。
 手をつないだ瞬間の鼓動。
 あのときの自分だけが、いちばん“生きていた”。

(……俺、本当は、歌いたかったんだ)

 指で文字をなぞると、胸の奥がきゅっと痛む。

――《君となら、きっと》

 滲んだインクの一行が、今も彼の心を縛りつけていた。


---

 放課後の音楽室。
 夕陽がゆっくりと差し込み、ピアノの上を淡く染めていく。

 麻里奈は鍵盤の前に座り、静かに息を吐いた。
 周囲にはもう誰もいない。部員たちは帰り、残るのは響きだけ。

 白い鍵盤に触れると、自然にあの旋律が浮かんでくる。
「Twilight Notes」――口に出すことさえなくなった名前。

(大和くん……あのあと、どうしてるんだろう)

 ふとテレビの中で見た笑顔がよみがえる。
 ドラマのエンディングで流れた“俳優・桜井大和”の文字。

(すごいね……でも、なんか、少しだけ……寂しそうに見えた)

 まるで誰かが作った夢を、そのまま演じているみたいだった。

「……また、いつか一緒に歌いたいね」

 麻里奈がそっと呟いたとき、窓の外から風が吹き込む。
 譜面のページが一枚、ゆっくりとめくれた。

 その隅に書かれた文字――

――《君に届くように》

 麻里奈は目を閉じて、小さく微笑んだ。
 どこかで、彼もまだこの歌を覚えている気がした。

 離れた街、違う夢。
 それでも、同じ空の下で、ふたりはまだ――
 あの日の音を探していた。

 そして、再び交わる“運命の旋律”が、
 静かに、確かに、動き出そうとしていた。

 
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