《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene3「午後の休憩時間、スタジオの片隅」

撮影の合間。
スタッフたちが機材をチェックし、スタジオの空気が少しだけゆるむ。

控えスペースの隅で、麻里奈と光輝が資料を手に立っていた。
ふたりは軽く言葉を交わしながら、タブレットを覗き込む。

「違いますよ、須田さん。私、ちゃんと準備しましたってば」
「いやいや、これだけ完璧に進んでるのは、僕の根回しのおかげでしょ?」
「えーっ、ひどいなあ……」

笑いながら肩をすくめる麻里奈。
光輝は軽く手を伸ばし、彼女の肩をそっとたたいた。

──まるで、昔から息の合ったチームのように。

麻里奈は自然に笑い返す。
仕事の現場では、こんな小さな信頼関係が空気を和らげる。
けれどその光景を、今――別の場所から見ている人がいた。


---

撮影モニターの前。

大和は、画面越しに麻里奈たちを見つめていた。
視線を逸らそうとしても、どうしても目が離れない。

麻里奈の笑顔。
誰かとあんなふうに、自然に肩を触れ合う仕草。
──知っているはずの表情なのに、手の届かない距離にある気がした。

(……あんな顔、俺の前では見せなかったのに)

胸の奥がざらつく。
焦燥、嫉妬、虚しさ。
それでも、どれも正解じゃない気がした。

息が詰まりそうになり、
大和は無意識にモニターから視線を外す。

「……少し、外の空気吸ってきます」

手近にあったペットボトルを掴み、スタッフに短く告げる。
スタジオの扉を開けると、冷たい空気が肌に触れた。


---

廊下は静かだった。
壁際に寄りかかりながら、大和は大きく息を吐く。

(なんで、今さら……)

高校の頃、彼女と一緒にいた時間が脳裏をよぎる。
笑って、喧嘩して、夢を語って。
それなのに――
もう、あの頃の“距離”には戻れない。

喉の奥に残るざらついた想いは、
あの日の夕焼けと同じように、
今も胸の奥で、静かにくすぶっていた。

 
< 39 / 48 >

この作品をシェア

pagetop