《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene4「廊下のベンチにて」

スタジオを出ると、空気が少しだけ冷たく感じられた。
照明の落ち着いた廊下は、さっきまでの喧騒が嘘のように静かだ。

長椅子に腰を下ろし、ペットボトルのキャップを開ける。
冷たい水を一口だけ飲み、天井を見上げた。

何してるんだ、俺。

胸の奥が、まだざわついている。
さっきモニター越しに見た光景が、頭の中で何度も繰り返された。

麻里奈の笑い声。
光輝の肩に触れる手。
他愛もないやり取り。

それなのに、どうしてこんなにも引っかかるんだろう。

ただの仕事の話だろ?
昔の俺なら、こんなふうに引っかかりもしなかったのに。

でも、今の自分は違う。
胸の奥に沈んでいた“あの日の痛み”が、また静かに疼き出していた。

榊が、麻里奈に告白してた――
そう思い込んで、勝手に距離を置いた。
傷つく前に、逃げたんだ。

何も言えないまま、逃げるみたいに芸能界に入って。
気づけば、いくつもの季節が過ぎていた。

彼女に、何ひとつ「伝えられたこと」がないまま。

……俺、ずっと同じ場所に立ち止まってる。

麻里奈は前に進んでいた。
新しい仕事、新しい人間関係。
それでも、あの笑顔は変わらない。

それが、余計に痛かった。

大和は目を伏せ、膝の上で手をぎゅっと握った。

俺は、どうしたいんだ。

再会なんて、きっと偶然じゃない。
運命なんて信じていなかったはずなのに、
どうしても心がざわついて、落ち着かない。

それでも――
踏み出すには、まだ怖かった。

誰かを――もう一度、信じたいと思うことが、
こんなにも難しいなんて、思ってもいなかった。

 
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