《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene6「二人だけのフレーム」

「──じゃあ、カメラチェック入りまーす!」

スタッフの声が飛び交い、スタジオに再び活気が戻る。
ライトが照らされ、モニターの光が白く反射していた。

大和は椅子に腰かけ、レンズの先に視線を向ける。
無機質なはずのカメラが、今日はやけに重く感じられた。

「大和くん、もう少し自然体で。さっきよりも……柔らかくいこうか」

カメラマンがモニターを覗きながら声をかける。

「……はい」

頷き、ポーズを変える。
けれど、どこかぎこちない。
視線の奥に、別の“意識”が混じっていることに、自分でも気づいていた。

「うーん……違うなあ。今の大和くん、どこか“構えてる”感じする」

ぽつりと落ちた言葉に、スタジオの空気がすっと張りつめる。

「……あ、じゃあさ」

カメラマンが周囲を見回し、ふと麻里奈を指さした。

「彼女、スタッフさんだよね? ちょっと入ってもらえる?」

「えっ、私ですか?」

麻里奈は目を見開き、タブレットを抱きしめるように立ち尽くした。

「立ち位置はここで。ポーズとか意識しなくていいよ。普通に話しかける感じで」

「……わ、わかりました」

一歩、セットの中央へ。
その瞬間、大和の視線は自然と彼女を追っていた。

光を受け、髪がやわらかく揺れる。
その光景に、高校の文化祭の記憶が重なる。

──同じ光の中で、笑っていた。

「じゃあ、回します!」

シャッター音が、静かなリズムを刻み始める。

「……元気だった?」

ほとんど聞き取れないほど小さな声。
大和は答えず、その声だけを胸に受け止めた。

目が合う。
一瞬、世界が止まった。

たった数十センチの距離。
それだけで、心臓が跳ねる。

「──今の、すごくいいよ。大和くん、いい表情してる」

カメラマンの声に、スタッフがざわめく。
大和と麻里奈は、同時に視線を逸らした。

(……仕事なのに)

そう思うのに、心はまったく言うことを聞かない。

「次は──二人でペアカットいこうか。表情がいい、もう少し引き出してみたい」

スタジオがざわめいた。
麻里奈は一瞬ためらい、それから静かにうなずいて歩き出す。

光の中で、ふたりが向かい合う。

「……緊張する」

大和の唇が動く。声にはならない。
けれど、その想いは確かに届いていた。

「うん……私も、そう思ってた」

言葉にしなかった想いが、静かに重なる。

「大和くん、もう少し近づいて。……そう、彼女の肩に軽く手を添えて」

「っ……」

ためらいながら伸ばした指先が、麻里奈の肩に触れる。
自分の震えが、はっきりわかった。

──柔らかくて、温かい。

あの夏の終わり、彼女の涙の熱がふいに蘇る。

「目を合わせて。少し切なげに──はい、そのまま!」

視線が絡む。
近すぎる距離に、息をするのも忘れる。

胸の鼓動が、シャッター音よりも速く鳴っていた。

「──はい、カット!」

その声で、一気に現実へ引き戻される。
ほんの一歩、距離を取る。

けれど、その一歩が、どうしようもなく名残惜しい。

「ありがとうございました。すごくいい表情でした」

拍手が響く中、
大和は視線を落とし、
麻里奈は口元を押さえ、小さな微笑を隠していた。

 
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