《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene7「熱と視線と、プロの目」

「──はい、カット!」

スタッフたちの拍手が響く中、麻里奈と大和はそっと距離を取った。

息が浅い。頬が熱い。
──ライトのせいじゃない。

「ありがとう、ふたりとも。完璧だったよ」

満足げなカメラマンの声。
張り詰めていた空気が、ようやく緩みかけた、そのとき。

「……少し、待ってください」

低い声が、その場を静かに制した。

スタジオの出入口から、スーツ姿の男が歩み出る。
須田光輝だった。

「……何をしているんですか。
 彼女は“うちのスタッフ”です。事前の確認もなく被写体に使われるのは困ります」

場の空気が、すっと冷える。

カメラマンは眉をひそめ、肩をすくめた。

「悪いとは思ってる。でも、いい絵が撮れた。
 君だって、それくらい分かるだろ?」

「分かりますよ。だからこそ、ルールは守っていただきたい」

淡々とした声。
だが、その奥には譲らない意志があった。

その視線が一瞬だけ、麻里奈をとらえる。

胸が、きゅっと縮む。
(……どうして、そんな目で見るの)

「……まあいい。確かに線は引かないとな」

カメラマンは軽く笑い、機材に戻ろうとしたが、ふと足を止めた。

「それにしても──君、いい表情してた。
 モデル経験ある? 君はいいものを“持ってる”よ。今度、個人的に撮らせてくれないか?」

「えっ……」

息をのむ麻里奈。

その瞬間、須田の声が重なる。

「申し訳ありませんが、そういった話はすべて“僕を通して”ください。
 業務外の接触は、本人の判断を尊重したうえで対応します」

一歩前に出る須田。
視線が交差する。

麻里奈はその背中を見つめながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。

守られている気がする。
けれど同時に、自分の意思が置き去りにされそうな不安も、確かにあった。

少し離れた場所で、大和は黙ってその光景を見ていた。

(……なんなんだよ、この感じ)

“うちのスタッフ”という言葉が、耳に残る。

かつて自分が隣にいたはずの場所。
今は、まるで違う誰かが立っている。

胸の奥が、静かに疼いた。

 
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