《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》
Scene8「こぼれた本音」
撮影が終わった直後のスタジオ。
照明が落ち、機材の撤収が始まる。
人のざわめきが少しずつ遠ざかり、静けさが戻っていく。
その片隅で、麻里奈と光輝が立ち話をしていた。
「光輝さん……さっきのことで、怒ってるんですか?」
気まずそうに切り出すと、光輝は目を伏せたまま答えない。
いつもの余裕が、その横顔から消えていた。
「……カメラマンさん、悪気があったわけじゃないと思います。
いい写真を撮りたいって、それだけで……だから、そこまで言わなくても……」
その瞬間。
光輝の視線が、まっすぐ麻里奈をとらえた。
真剣で、どこか切なさを含んだ瞳。
そして、ぽつりと、絞り出すように言う。
「悪気があるとか、ないとかじゃない」
一拍、間を置いて。
「……俺が、嫌なんだよ」
麻里奈の喉が、ひくりと鳴る。
「君が、誰かに見惚れられてるのが。
あいつが君を見てた目、わかったよ。
カメラ越しじゃなくて……“男の目”だった」
言葉を選ぶように、少し視線を逸らしながら。
「……それが、嫌だったんだ」
麻里奈は言葉を失った。
胸の奥がじんと熱くなる。
それが戸惑いなのか、嬉しさなのか、自分でもわからない。
鼓動が速い。
仕事中なのに、息が詰まりそうだった。
「……須田さん……」
かろうじて声を出したその瞬間、
光輝はふっと息を吐き、目をそらす。
「……ごめん。カッとなった。
職場でする話じゃなかったな」
軽く笑い、肩をすくめる。
その仕草は、いつもの“上司の顔”に戻っていた。
「忘れて。……俺のわがままだから」
そう言って、麻里奈の頭をポンと叩く。
一瞬だけ残ったその感触を置き去りにして、光輝は背を向けた。
けれど、麻里奈の胸の中には、忘れられない言葉が残っていた。
──「男の目だった」
──「俺が、嫌なんだよ」
その背中を見つめながら、
麻里奈は唇をぎゅっと噛みしめる。
---
──そして、その数メートル先。
機材の陰に、ひとりの青年の影。
大和は、偶然その会話を聞いてしまっていた。
(……須田さん。
麻里奈に、そんな目を向けてたんだ)
心がざわつく。
麻里奈が笑っていた理由。
あんなふうに自然に話せる相手。
撮影のとき、彼女の肩に触れた瞬間に感じた、あの違和感。
すべてが、ひとつに繋がる。
(違う……
俺は、何を期待してたんだ)
喉の奥が、熱く痛む。
麻里奈が笑うたび、隣にいるのは自分じゃない。
その事実が、どうしようもなく苦しかった。
スタジオの照明が完全に落ち、
白いセットが灰色に沈んでいく。
──その中で、大和の胸だけが、
まだ焼けるように熱を残していた。
照明が落ち、機材の撤収が始まる。
人のざわめきが少しずつ遠ざかり、静けさが戻っていく。
その片隅で、麻里奈と光輝が立ち話をしていた。
「光輝さん……さっきのことで、怒ってるんですか?」
気まずそうに切り出すと、光輝は目を伏せたまま答えない。
いつもの余裕が、その横顔から消えていた。
「……カメラマンさん、悪気があったわけじゃないと思います。
いい写真を撮りたいって、それだけで……だから、そこまで言わなくても……」
その瞬間。
光輝の視線が、まっすぐ麻里奈をとらえた。
真剣で、どこか切なさを含んだ瞳。
そして、ぽつりと、絞り出すように言う。
「悪気があるとか、ないとかじゃない」
一拍、間を置いて。
「……俺が、嫌なんだよ」
麻里奈の喉が、ひくりと鳴る。
「君が、誰かに見惚れられてるのが。
あいつが君を見てた目、わかったよ。
カメラ越しじゃなくて……“男の目”だった」
言葉を選ぶように、少し視線を逸らしながら。
「……それが、嫌だったんだ」
麻里奈は言葉を失った。
胸の奥がじんと熱くなる。
それが戸惑いなのか、嬉しさなのか、自分でもわからない。
鼓動が速い。
仕事中なのに、息が詰まりそうだった。
「……須田さん……」
かろうじて声を出したその瞬間、
光輝はふっと息を吐き、目をそらす。
「……ごめん。カッとなった。
職場でする話じゃなかったな」
軽く笑い、肩をすくめる。
その仕草は、いつもの“上司の顔”に戻っていた。
「忘れて。……俺のわがままだから」
そう言って、麻里奈の頭をポンと叩く。
一瞬だけ残ったその感触を置き去りにして、光輝は背を向けた。
けれど、麻里奈の胸の中には、忘れられない言葉が残っていた。
──「男の目だった」
──「俺が、嫌なんだよ」
その背中を見つめながら、
麻里奈は唇をぎゅっと噛みしめる。
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──そして、その数メートル先。
機材の陰に、ひとりの青年の影。
大和は、偶然その会話を聞いてしまっていた。
(……須田さん。
麻里奈に、そんな目を向けてたんだ)
心がざわつく。
麻里奈が笑っていた理由。
あんなふうに自然に話せる相手。
撮影のとき、彼女の肩に触れた瞬間に感じた、あの違和感。
すべてが、ひとつに繋がる。
(違う……
俺は、何を期待してたんだ)
喉の奥が、熱く痛む。
麻里奈が笑うたび、隣にいるのは自分じゃない。
その事実が、どうしようもなく苦しかった。
スタジオの照明が完全に落ち、
白いセットが灰色に沈んでいく。
──その中で、大和の胸だけが、
まだ焼けるように熱を残していた。