《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

第1章・Scene4「放課後、ふたりの日課」

 放課後の体育館は、夕方の光を集めてオレンジ色に染まっていた。
 床に反射する西日がきらきらと揺れて、まるで秘密を包み込む箱みたいに静かだ。

 「今日も来たんだ」

 練習着に着替えた大和が、軽く息を弾ませながら顔を上げる。
 額ににじんだ汗が光に溶けて、黒髪が少し濡れて見えた。

 「うん。……見ててもいい?」

 「もちろん。……でも、麻里奈さんがいると、ちょっと緊張する」

 冗談みたいな声。
 でも、その照れくさそうな響きに、麻里奈の胸の奥がじわりと熱くなる。

 床に腰を下ろすと、目の前で大和のスニーカーがステップを刻み始めた。
 軽やかなリズムに合わせて跳ねるたび、空気が柔らかく揺れる。

 ――きれい。
 何度見ても、目が離せない。

 「……麻里奈さんも、やってみる?」

 突然差し出された手に、心臓がドクンと跳ねた。

 「えっ、私なんて無理だよ!」

 「大丈夫。ほら、手、貸して」

 指先が触れた瞬間、ふたりの肩が同時に小さく動く。
 ――あったかい。
 ほんの一瞬なのに、胸の奥がざわめいて離せない。

 「リズムに合わせて、足だけ動かしてみて」

 真剣な声。
 麻里奈は恐る恐る足を運んだ。
 ぎこちないステップを支えるように、大和の手がそっと背中に触れる。

 「……うん、上手い」

 その一言だけで、世界が少し明るくなった気がした。
 目が合った瞬間、時間が止まったように静まり返る。

 ――これって、何なんだろう。
 友達? それとも……。

 麻里奈は慌てて首を振って、リズムに合わせて足を動かし続けた。
 けれど胸の奥で鳴る鼓動だけは、どうしても止められなかった。

 ――この時間が、いつの間にか私の“日常”になっていた。


 
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