《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》
Scene2「揺れ始めた時間」
控室のドアが、静かに開いた。
「失礼します。麻里奈さん、ちょっといいですか?」
声をかけたのは撮影スタッフのひとり。
顔を上げた瞬間、麻里奈は息をのんだ。
その背後に──大和が立っていた。
「次のカットなんですけど……彼と一緒に、小道具の動きの確認をお願いできます?」
「……はい、わかりました」
そう答えながら、視線が自然と彼に向かう。
数歩先を歩いていく背中。
昨日よりも、なぜか目を離しづらいと感じるのは──きっと、気のせいじゃない。
スタジオに戻ると、白いセットの中に、ふたりだけの静かな空間が生まれた。
照明の光がやわらかく反射し、周囲の音が遠くなる。
世界の輪郭が、ふたりのまわりだけ曖昧になるような感覚。
「この角度から入って……あ、服の裾を掴むの、自然な感じでお願いしますねー!」
スタッフの声が、どこか遠い。
大和が立ち位置を確認しながら動くのを、麻里奈はタブレット越しに見ていた。
けれど、視線はいつのまにか彼自身を追っている。
「……これで大丈夫?」
声に呼ばれて顔を上げると、いつのまにか目の前に彼がいた。
「うん。麻里奈さんが確認してくれると、安心する」
その言葉に、胸が小さく跳ねる。
──今、“麻里奈さん”って。
「……何それ。私なんて、ただの裏方なのに」
思わず笑ってごまかすと、大和は少し困ったように眉を下げた。
「裏方とか、そういうんじゃなくて……」
一瞬、言葉を探すように間を置いてから、
「……一番、ちゃんと見てくれてる人だから」
視線が合う。
ライトの光が、ふたりの間の空気を照らし出す。
息をするのを忘れるほどの距離。
けれど、その静けさは長く続かなかった。
「桜井くん! 次のテイク入りますー!」
スタッフの声が響き、現実が戻る。
「……じゃあ、行ってくるね」
大和は軽く口元を緩め、セットの中央へ向かっていった。
その背中を見送りながら、麻里奈は胸元をそっと押さえる。
(今の……どういう意味だったの……?)
問いは答えを持たないまま、
胸の奥で、小さく、確かに揺れ続けていた。
「失礼します。麻里奈さん、ちょっといいですか?」
声をかけたのは撮影スタッフのひとり。
顔を上げた瞬間、麻里奈は息をのんだ。
その背後に──大和が立っていた。
「次のカットなんですけど……彼と一緒に、小道具の動きの確認をお願いできます?」
「……はい、わかりました」
そう答えながら、視線が自然と彼に向かう。
数歩先を歩いていく背中。
昨日よりも、なぜか目を離しづらいと感じるのは──きっと、気のせいじゃない。
スタジオに戻ると、白いセットの中に、ふたりだけの静かな空間が生まれた。
照明の光がやわらかく反射し、周囲の音が遠くなる。
世界の輪郭が、ふたりのまわりだけ曖昧になるような感覚。
「この角度から入って……あ、服の裾を掴むの、自然な感じでお願いしますねー!」
スタッフの声が、どこか遠い。
大和が立ち位置を確認しながら動くのを、麻里奈はタブレット越しに見ていた。
けれど、視線はいつのまにか彼自身を追っている。
「……これで大丈夫?」
声に呼ばれて顔を上げると、いつのまにか目の前に彼がいた。
「うん。麻里奈さんが確認してくれると、安心する」
その言葉に、胸が小さく跳ねる。
──今、“麻里奈さん”って。
「……何それ。私なんて、ただの裏方なのに」
思わず笑ってごまかすと、大和は少し困ったように眉を下げた。
「裏方とか、そういうんじゃなくて……」
一瞬、言葉を探すように間を置いてから、
「……一番、ちゃんと見てくれてる人だから」
視線が合う。
ライトの光が、ふたりの間の空気を照らし出す。
息をするのを忘れるほどの距離。
けれど、その静けさは長く続かなかった。
「桜井くん! 次のテイク入りますー!」
スタッフの声が響き、現実が戻る。
「……じゃあ、行ってくるね」
大和は軽く口元を緩め、セットの中央へ向かっていった。
その背中を見送りながら、麻里奈は胸元をそっと押さえる。
(今の……どういう意味だったの……?)
問いは答えを持たないまま、
胸の奥で、小さく、確かに揺れ続けていた。