《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene5 探る視線

 撮影現場のスタジオには、今日も掛け声と笑い声が飛び交っていた。
 カメラのシャッター音、スタッフの指示、モニターに映る光。
 すべてがいつも通りのはずなのに――麻里奈の胸の奥では、わずかな違和感が渦を巻いていた。
 
(……大和くん、昨日のこと……やっぱり気にしてる?)
 
 視線が合うと、彼はすぐに目を逸らす。
 あの夜、手をつないで歩いた帰り道。
 確かに近づいたはずの距離が、今日はまた少し遠く感じられた。

 
 その変化に、最初に気づいたのは――やはり彼だった。
 
「最近、空気が変わったな。君と、桜井くんの間」
 
 低く落ち着いた声。
 振り向いた瞬間、麻里奈は息をのむ。
 
 すぐ背後に立っていたのは、須田光輝だった。
 いつもの柔らかな笑みは消え、その瞳には静かな鋭さが宿っている。
 
「え……?」
 
「朝、スタジオに入ってきたときの雰囲気。気づかないと思った?」
 
「そ、そんな……な、何もありませんよ」
 
 慌てて返した声が、わずかに裏返る。
 光輝の眉が、ほんの少しだけ動いた。
 
「……君らしくないな。嘘をつくとき、少しだけ目線が下に落ちる」
 
「……っ」
 
(バレてる……?)
 
 喉が詰まる。
 でも、知られたくなかった。
 あの夜の大和の笑顔も、指先に残る手の温もりも――
 今だけは、自分だけの宝物にしておきたかった。
 
「……本当に、なんでもないんです。たまたま、話す機会があっただけで……」
 
「ふうん」
 
 光輝は肩をすくめる。
 けれど、その視線に浮かんだのは納得ではなく、観察の色だった。
 
「“たまたま”にしては……君のほうが、ずいぶん意識しているように見えるけどな」
 
「……!」
 
 言い返そうとして、言葉が喉で止まる。
 
 その沈黙を切るように、光輝がふっと息を吐いた。
 
「君が誰を好きになろうと、俺が口を挟むことじゃない。……でも」
 
 一拍置いて、ゆっくりと視線が重なる。
 その瞳は、優しさと確かめるような色を同時に宿していた。
 
「俺は、見てるからな。……君の笑顔が、誰に向いているのか」
 
 逃げ場のない言葉。
 胸がきゅっと締めつけられる。
 
 そこにあるのは、守るような声音と、逃がさない視線。
 優しさと支配の境界が、曖昧に混じり合っていた。
 
「……須田さん」
 
 名を呼ぶ声は、かすかに震える。
 
 言葉にできない動揺が、静かに胸の奥を波立たせていた。
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