《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》
Scene6 揺れる視線と鋭い探り
撮影が思いのほか早く終わった日の夕方。
機材の片づけが進むスタジオで、須田光輝が朗らかな声を張った。
「よし、今日はこのあと空きだな。
たまには親睦も兼ねて、軽く飲みに行くか。なぁ、桜井くんも麻里奈くんも、付き合ってくれるよな?」
スタッフたちがざわつき、数人が「行きます!」と元気よく返事をする。
麻里奈と大和は、思わず顔を見合わせた。
須田の笑顔はどこまでも自然で、上司としての気遣いそのものに見える。
けれど――麻里奈にはわかっていた。
(……須田さん、確かめに来てる)
あの視線の奥に潜む、静かな探りの色を。
居酒屋。
落ち着いた照明の下、半個室の席には小皿とグラスが並ぶ。
須田の隣には麻里奈、向かいの席には大和が座っていた。
「おつかれさまー!」
乾杯の声が響き、グラスが軽く触れ合う。
他のスタッフたちは笑いながら談笑していたが、麻里奈の胸は妙に落ち着かなかった。
(……やっぱり)
大和はいつもより静かで、笑っていてもどこかぎこちない。
視線が合うと、すぐに逸らされる。
昨夜、つないだ手のぬくもりが不意によみがえり、心臓が痛いほど高鳴った。
「そういえばさ」
ふいに、須田が口を開く。
笑い声が一瞬止まり、場の空気がわずかに張りつめた。
「最近、二人の間の“よそよそしさ”がなくなったよな?
前はもっと距離があっただろ。……何かあったのか?」
麻里奈の手が、グラスの中で止まる。
「い、いえ……特に何かあったわけじゃなくて。
現場で、少しずつ話せるようになっただけです」
「ふーん?」
須田はグラスを口に運び、意味ありげに目を細めた。
「まあ、いいけどさ。
桜井くんは、うちの大事なタレントだから――
妙な噂は、立てられないようにしてくれよ?」
グラス越しに響く声は、低く、どこか重かった。
大和は黙ったまま俯き、
麻里奈は胸の奥に、ひやりとした痛みを覚えて言葉を失う。
須田は笑った。
それは、誰が見ても完璧な“上司の笑顔”。
「ま、桜井くんは真面目だし、
そんな心配、する必要もないとは思ってるけどな!」
冗談めいた口調。
けれど、その言葉の端々には、確かに嫉妬の色が滲んでいた。
麻里奈の横で、須田の肘がコツンと軽く触れる。
「それに――麻里奈くんも、うちのタレントに惚れちゃダメだからな?」
「っ……そ、そんなこと……」
必死に否定しているのに、声がわずかに震える。
そのとき。
向かいの席で、大和が静かにグラスを置いた。
カラン――。
その音が、妙に冷たく響いた。
俯いた彼の目元に、ほんの一瞬、影が落ちる。
須田は、笑っていた。
だが、麻里奈にはもう――
その笑顔の裏に潜む棘が、はっきりと見えていた。
そして大和もまた、
その奥にある“何か”を、確かに感じ取っていた。
(……須田さん。あなた、どこまで気づいてる?)
テーブル越しに、ふたりの視線がほんの一瞬だけ交錯する。
沈黙は、音もなく夜の喧騒に溶けていった。
機材の片づけが進むスタジオで、須田光輝が朗らかな声を張った。
「よし、今日はこのあと空きだな。
たまには親睦も兼ねて、軽く飲みに行くか。なぁ、桜井くんも麻里奈くんも、付き合ってくれるよな?」
スタッフたちがざわつき、数人が「行きます!」と元気よく返事をする。
麻里奈と大和は、思わず顔を見合わせた。
須田の笑顔はどこまでも自然で、上司としての気遣いそのものに見える。
けれど――麻里奈にはわかっていた。
(……須田さん、確かめに来てる)
あの視線の奥に潜む、静かな探りの色を。
居酒屋。
落ち着いた照明の下、半個室の席には小皿とグラスが並ぶ。
須田の隣には麻里奈、向かいの席には大和が座っていた。
「おつかれさまー!」
乾杯の声が響き、グラスが軽く触れ合う。
他のスタッフたちは笑いながら談笑していたが、麻里奈の胸は妙に落ち着かなかった。
(……やっぱり)
大和はいつもより静かで、笑っていてもどこかぎこちない。
視線が合うと、すぐに逸らされる。
昨夜、つないだ手のぬくもりが不意によみがえり、心臓が痛いほど高鳴った。
「そういえばさ」
ふいに、須田が口を開く。
笑い声が一瞬止まり、場の空気がわずかに張りつめた。
「最近、二人の間の“よそよそしさ”がなくなったよな?
前はもっと距離があっただろ。……何かあったのか?」
麻里奈の手が、グラスの中で止まる。
「い、いえ……特に何かあったわけじゃなくて。
現場で、少しずつ話せるようになっただけです」
「ふーん?」
須田はグラスを口に運び、意味ありげに目を細めた。
「まあ、いいけどさ。
桜井くんは、うちの大事なタレントだから――
妙な噂は、立てられないようにしてくれよ?」
グラス越しに響く声は、低く、どこか重かった。
大和は黙ったまま俯き、
麻里奈は胸の奥に、ひやりとした痛みを覚えて言葉を失う。
須田は笑った。
それは、誰が見ても完璧な“上司の笑顔”。
「ま、桜井くんは真面目だし、
そんな心配、する必要もないとは思ってるけどな!」
冗談めいた口調。
けれど、その言葉の端々には、確かに嫉妬の色が滲んでいた。
麻里奈の横で、須田の肘がコツンと軽く触れる。
「それに――麻里奈くんも、うちのタレントに惚れちゃダメだからな?」
「っ……そ、そんなこと……」
必死に否定しているのに、声がわずかに震える。
そのとき。
向かいの席で、大和が静かにグラスを置いた。
カラン――。
その音が、妙に冷たく響いた。
俯いた彼の目元に、ほんの一瞬、影が落ちる。
須田は、笑っていた。
だが、麻里奈にはもう――
その笑顔の裏に潜む棘が、はっきりと見えていた。
そして大和もまた、
その奥にある“何か”を、確かに感じ取っていた。
(……須田さん。あなた、どこまで気づいてる?)
テーブル越しに、ふたりの視線がほんの一瞬だけ交錯する。
沈黙は、音もなく夜の喧騒に溶けていった。