《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene8 揺れる三角関係の夜

「麻里奈くん……だいぶ酔ってるな」
 
 グラスを傾ける彼女を見て、光輝が眉をひそめた。
 けれど麻里奈は、頬を赤く染めたまま、にっこりと笑う。
 
「酔ってなんかいませんよ〜! ほら、もっと飲みましょ!
 須田さんも、大和くんも……すみませ〜ん、おかわりくださ〜い!」
 
 声は大きく、ろれつももう危うい。
 テーブルの上で、氷がからんと乾いた音を立てた。
 
「バカ……もうやめろよ。飲みすぎだって」
 
 思わず立ち上がった大和。
 だがその腕を、光輝が静かに制した。
 
「……俺が送っていく」
 
 低く、落ち着いた声。
 けれどその奥に潜む“強さ”を、大和ははっきりと感じ取っていた。
 
「須田さん……?」
 
「ほら、麻里奈くん。立てるか?」
 
「や、やだぁ……! まだ飲みますから……」
 
 ふらついた麻里奈が、テーブルに手をついて抗議する。
 光輝は小さく息を吐き、彼女の肩に手を添えた。
 
「もう十分だ。ほら、行くよ」
 
「……えへへ……須田さんって、優しいですよね……」
 
 光輝に支えられ、麻里奈は千鳥足で店を出ていく。
 夜の光の中で揺れるその背中を――
 
 大和は、追えなかった。
 
 立ち上がることもできず、ただ黙って見送るしかなかった。
 
 喉の奥が、ひどく乾く。
 耳の奥に、さっきの麻里奈の無邪気な笑い声が、いつまでも残っている。
 
(……俺は、また何もできなかった)
 
 拳が、知らず強く握られる。
 胸の奥で、悔しさと焦り、そして――
 どうしようもない嫉妬が、静かに絡まり合っていく。
 
 店の扉が閉まり、夜風がすき間から吹き込んだ。
 冷たい空気の中に、
 麻里奈の甘い香りだけが、まだ残っていた。
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