《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene14 見せつける距離

 撮影は順調に進んでいた。
 スタッフが機材調整に入った、束の間の休憩時間。
 
 大和はペットボトルの水をひと口飲み、無意識にスタジオの隅へと視線を向けた。
 そこにいたのは、光輝と話す麻里奈の姿。
 
 笑っている。
 けれど、その笑顔はどこか硬く、逃げ道を探しているようにも見えた。
 
(……麻里奈さん、やっぱり、いつもと違う)
 
 そう感じた、その瞬間だった。
 
 光輝がふいに一歩、彼女との距離を詰めた。
 
「ネックレス、曲がってるよ」
 
 穏やかな声。
 だが次の瞬間、長い指先が、ためらいもなく麻里奈の首元へ伸びる。
 
 鎖に触れる指。
 近すぎる距離。
 
 まるで――恋人同士の、それだった。
 
(……なに、してるんだよ)
 
 大和の喉が、からからに乾く。
 視線を逸らそうとしても、体が言うことをきかない。
 
 光輝は、麻里奈の耳元に顔を寄せ、低く囁いた。
 
「その表情も、可愛いよ。……俺だけに見せて?」
 
 麻里奈の目が、わずかに見開かれる。
 指先が、ほんの少し震えた。
 
 拒絶の言葉は、なかった。
 けれどそこに浮かんだのは、笑顔とは言えない――
 逃げ場を失ったような、曖昧な微笑。
 
(麻里奈さん……)
 
 胸の奥に、焼けつくような痛みが走る。
 息を呑む音すら、出なかった。
 
(……やっぱり、あの人と、何かあるんじゃ……)
 
 口にすれば壊れてしまいそうな疑念が、
 静かに、しかし確実に――
 大和の心を締めつけていった。
< 63 / 73 >

この作品をシェア

pagetop