《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》
Scene16 原点のステージ
タクシーのドアが閉まり、夜の街がゆっくりと遠ざかっていく。
窓の外を流れる光を追いながら、麻里奈は無意識に胸元へ手を伸ばした。
逃げるように手を引かれ、言葉も見つからないまま飛び乗った車。
けれど――その手のぬくもりだけは、まだ掌に残っていた。
やがて車は住宅街の一角で停まり、大和が「ここ」と小さく呟く。
案内された先は、築浅のコンパクトな建物だった。
扉を開けると、広めのフローリングスペース。
壁一面の鏡と、音響機材。
そこは、まるで“何かが始まる前の場所”のように静かだった。
「ここ……スタジオ?」
麻里奈の問いに、大和は少し照れたように頷く。
「うん。自宅兼、スタジオ。……昔から、踊れる場所が欲しかったんだ」
鏡の前に立ち、自分の姿を見る。
今日の服も、今の自分も――どこか借りものみたいで、まだ馴染まない。
けれど。
「……俺、ほんとはさ」
背後から、静かな声が落ちてきた。
「昔、ダンサーになりたかったんだ。
目立つのは苦手だったけど……踊ってる時だけは、素直でいられた」
ゆっくり振り返ると、大和は懐かしむような眼差しで、まっすぐにこちらを見ていた。
「でも、あの日――文化祭で、君と一緒にステージに立った時、全部が変わった」
「……え?」
「歌って、踊って……“届けたい”って、初めて思えた。
上手くやるんじゃなくて、心ごと届けたいって。
君の歌を聴いて、そう思ったんだ」
そう言って、大和は小さく笑う。
その表情は、あの日の少年のままだった。
「俺が今ここにいるのは……きっと、あの日、君がいたからだよ」
麻里奈は息を呑み、視線を落とす。
忘れたふりをしていた記憶が、彼の言葉で静かに息を吹き返す。
「……覚えててくれたんだね。
私も……あのステージ、ずっと忘れられなかった」
一歩、距離が縮まる。
大和はそっと、彼女の前に手を差し出した。
「もう一度……あの時みたいに、誰かと何かを作る喜びを信じてみたくなった。
だから、今度は――ゆっくり、ちゃんと……会えないかな」
一瞬、麻里奈は目を見開き――
それから、照れくさそうに、でも確かに嬉しそうに、その手を取った。
微かに震える指先を包み込みながら、大和が笑う。
心から安堵したように、無邪気に。
その笑顔を見た瞬間、麻里奈の胸に、ふと影がよぎった。
(……もう、誰にもこの時間を壊されたくない)
願うように、彼女はそっと手を握り返した。
窓の外を流れる光を追いながら、麻里奈は無意識に胸元へ手を伸ばした。
逃げるように手を引かれ、言葉も見つからないまま飛び乗った車。
けれど――その手のぬくもりだけは、まだ掌に残っていた。
やがて車は住宅街の一角で停まり、大和が「ここ」と小さく呟く。
案内された先は、築浅のコンパクトな建物だった。
扉を開けると、広めのフローリングスペース。
壁一面の鏡と、音響機材。
そこは、まるで“何かが始まる前の場所”のように静かだった。
「ここ……スタジオ?」
麻里奈の問いに、大和は少し照れたように頷く。
「うん。自宅兼、スタジオ。……昔から、踊れる場所が欲しかったんだ」
鏡の前に立ち、自分の姿を見る。
今日の服も、今の自分も――どこか借りものみたいで、まだ馴染まない。
けれど。
「……俺、ほんとはさ」
背後から、静かな声が落ちてきた。
「昔、ダンサーになりたかったんだ。
目立つのは苦手だったけど……踊ってる時だけは、素直でいられた」
ゆっくり振り返ると、大和は懐かしむような眼差しで、まっすぐにこちらを見ていた。
「でも、あの日――文化祭で、君と一緒にステージに立った時、全部が変わった」
「……え?」
「歌って、踊って……“届けたい”って、初めて思えた。
上手くやるんじゃなくて、心ごと届けたいって。
君の歌を聴いて、そう思ったんだ」
そう言って、大和は小さく笑う。
その表情は、あの日の少年のままだった。
「俺が今ここにいるのは……きっと、あの日、君がいたからだよ」
麻里奈は息を呑み、視線を落とす。
忘れたふりをしていた記憶が、彼の言葉で静かに息を吹き返す。
「……覚えててくれたんだね。
私も……あのステージ、ずっと忘れられなかった」
一歩、距離が縮まる。
大和はそっと、彼女の前に手を差し出した。
「もう一度……あの時みたいに、誰かと何かを作る喜びを信じてみたくなった。
だから、今度は――ゆっくり、ちゃんと……会えないかな」
一瞬、麻里奈は目を見開き――
それから、照れくさそうに、でも確かに嬉しそうに、その手を取った。
微かに震える指先を包み込みながら、大和が笑う。
心から安堵したように、無邪気に。
その笑顔を見た瞬間、麻里奈の胸に、ふと影がよぎった。
(……もう、誰にもこの時間を壊されたくない)
願うように、彼女はそっと手を握り返した。