《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

Scene6「君となら、きっと」

 夕暮れの坂道が、茜色に染まっていた。
 ゆるやかな風が制服の裾を揺らし、どこか遠くでカラスの声が響く。
 放課後の街には、帰り道の笑い声と、沈みかけた太陽の匂いが混ざっていた。

 「文化祭、出るの?」

 並んで歩きながら、麻里奈がふいに尋ねた。
 大和は自転車を押しながら、少し照れたように笑う。

 「うん。ダンス部でステージやるって決まっててさ。俺も踊ることになった」

 「わぁ、楽しみ! 見に行くね、絶対!」

 その言葉に、大和はちらりと麻里奈を見て、小さくうなずいた。
 けれど次の瞬間、表情が少し真剣に変わる。

 「……あのさ、麻里奈さん、歌、上手いでしょ?」

 「えっ?」

 「前に音楽室で鼻歌うたってたの、聞こえた。すごく、やさしい声だった」

 頬が一気に熱くなる。
 あのとき、誰にも聞かれていないと思っていたのに。

 「うそ……ちょっと恥ずかしい」

 「……俺と、一緒に出ない?」

 「え?」

 「ダンス部とは別に、有志ステージってあるだろ? そこでユニットとして出ようよ。
 俺、ダンスしかできないけど……歌があったら、もっと伝えられる気がするんだ」

 その言葉が、まっすぐ胸に届く。
 春風のように軽やかで、でも、確かに心を動かす熱を帯びていた。

 「……わたしなんかで、いいの?」

 「うん。麻里奈さんとなら、きっと、伝えられる気がする」

 ――“夢”を。
 そして、“君への気持ち”を。

 胸の奥で、何かが小さくふるえた。
 気づかないふりをしていた小さな感情が、
 そっと芽を出す音がした気がした。

 「……わかった。一緒に出よう」

 差し出された手を、そっと握り返す。
 夕陽が沈む坂道で、ふたりの影がひとつに重なった。

 この日から、ふたりの放課後は、特別な時間へと変わっていった。
 その手のぬくもりが、夢の始まりになることを――
 まだ、誰も知らなかった。

 
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