婿入りの顛末

大逆転の王子様 -ソフィア視点-

正式な婚約の日に聞いた殿下と側近のお二人の会話は悲しすぎて、殿下が婚約を二つ返事で受けてくださったと聞いて嬉しく思っていた自分がとても恥ずかしく思えたのです。
わたくしを気に入って下さったなんて、ただの自惚れだったのだわ。
そう思うと、空気がとても重くなったようで息苦しくて、涙を堪えることが出来ませんでした。
皆さまから、殿下たちの会話には続きがあるという顛末を聞いても、殿下がどんなに喜んでいたか伝えられても、使用人たちに慰められても、私とは正反対の見た目の方がお好みだという事は変わらないもの。

殿下は毎日お花とカードを届けて下さって、それはとてもうれしいけれど、殿下のお好みが儚げな可愛らしい小柄な方と聞いたことがどうしても忘れられなくて、お会いする勇気が出ませんでした。

今日はセドリック殿下と初めてのお茶会です。
本当は二人の時間なのですが、お二人のご令嬢をお招きしています。
お二人とも高位貴族家で殿下との家格もつり合う、儚げな雰囲気の可愛らしい小柄な方です。
メイドも侍女たちも小柄で可愛らしい子を選んで侍らせました。

花束と美しいお菓子の箱を抱えた殿下は、私たちがご挨拶する間もなくわき目もふらず私の前に跪いて先日の無礼を詫び、どんなに今日が楽しみだったか、どんなに私が好きなのか話し続けています。
一緒にいらしたソイル侯爵家ルーカス様と、ブラッド辺境伯家カーター様は周囲の女性たちの姿を見て笑顔を引きつらせていますが、殿下は全く気付いていない様です。

殿下の手を取ると、やっと席について下さってお茶会が始まりました。
ご一緒した公爵家のマリアンヌ様と侯爵家のマーガレット様とは皆様面識がおありとの事で、
和やかにお茶会は進んでいったのですが、セドリック殿下は私の手を握ったままずっとにこにこと私だけをご覧になっていました。
ご一緒したお二人のご令嬢は私たちを祝福してくださり、殿下は私の手を握ったまま幸せそうに微笑んで下さいました。

お茶会が終わり、マリアンヌ様とマーガレット様をお見送りした後、
セドリック殿下は私の前に跪き、プロポーズをして下さいました。

「ソフィア・ユーハイム嬢 私、セドリックはあなたへの生涯変わらぬ愛を誓います。
どうか私と結婚してください。」

「わたくしを選んで後悔しませんか?
 婚約の時に交わした契約書はかなり王家とセドリック殿下にとって厳しいものですが。」
 
「あなたの夫となれるのであれば、どんな困難も厭いません。
  一度失った信頼を取り戻すことは容易ではないと分かっていますが、生涯かけてあなたが唯一であることを証明します。どうか、この手を取って下さい。」

わたくしはじっと殿下の手を見つめていました。
どのくらい時間がたったことでしょうか。
ふと目を上げると殿下のお顔は今にも泣きそうに強張っていました。

「殿下は、ずっと儚げで小柄な子が可愛いらしくて良いと思っていらしたのでしょう?
私はそうはなれません。今は私に心を向けてくださっていても、いつかそういうお好みの方が目の前に現れて愛を告げられたら、殿下はきっとその方に夢中になってしまわれるのだわ。」

涙を見せないように俯いたまま、わたくしは不安をそのままお伝えしてしまいました。
セドリック殿下は目を見開いたままぽろぽろ涙を零してぶんぶんと首を横に振っています。

「わたくしは・・・他の方へ愛を向ける殿下を見る日が来るかもしれないと思うと、お傍にいることに耐えられそうにありません。」

セドリック殿下は俯いたまま動かなくなってしまいました。













「・・・・・・犬なんだ」

「・・・犬?」

耳まで真っ赤になったセドリック殿下が、ぽつぽつと絞り出すようにお話しを始められました。

「・・・6匹いるんだ・・・ふわふわして小さくて、儚げに潤んだ大きな瞳の子たちが・・・
 僕の瞳の色のリボンを付けて毎日話しかけてとても可愛がっていることは、王宮の中では箝口令を敷いているし、王宮の外ではルーカスとカーター以外は知らない・・・」

「兄上たちからも、気持ち悪がられるから明かさないほうが良いと言われていて、あの子たちの話をするときには女の子として話す事にしていたんだよ。僕はソフィアに出会うまで女の子に興味を持てなかった。」

「近しい人間の間では、犬にしか興味がないと思われていた私がやっと見つけた女神がソフィアなんだ・・・」

「・・・」

「・・・やっぱり気持ち悪いだろうか・・・」

ポケットから取り出したハンカチで涙をぬぐい、うつむいたままふらりと立ち上がった殿下の手を
わたくしは咄嗟に両手で握っていました。

「わたくしとその子たちと、どっちが大事ですの!?」

セドリック殿下はびっくりするほどの速さでわたくしを振り返り、目を見張りました。





「そんな風に聞いてしまうような嫉妬深い女性はお嫌いでしょうか・・・」


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