日本語が拙い外国人と恋仲になりました
「あの、ムラオカさん」

 あたたかいお茶を喉に流し込み、チョウさんは私の目をじっと見てきた。お寿司を食べるときの幸せな表情とは打って変わって、何やら急に真剣になって。

「ワタシはアナタのことをたくさん知りたいです」
「……へ?」

 突然の言葉に、私は思わず咽せそうになってしまう。

「友だちになりましょう。もっとアナタと話をさせてほしい」
「ああ……はあ」

 思わず赤面してしまいそう。
 お構いなしに彼は身を乗り出して続けるの。

「ムラオカさんは、なぜ中国語を勉強するのですか?」
「えっ、なぜって」

 とくに、深い意味はない。
 数年前までは中国人観光客がものすごく多かった。客室の一割以上を、中華圏からのお客様が占める時期もあった。英語を話せるスタッフはたくさんいるけれど、それだと通じないことが多かった。だったら私が率先して中国語を覚えよう……と思っただけ。
 しかもホテルで使えそうな単語を覚えているだけだから、日常会話くらいしかできないのよね。
 私がそう話をすると、チョウさんは更に顔を輝かせた。

「真面目だ。素晴らしい。ワタシは嬉しい」
「えっ。どうして嬉しいの?」
「中国語を話せる日本人はあまり多くありません。だから、勉強しているムラオカさんは素晴らしい」
 
 自分の気持ちを次々と口にする彼に対して、私は心がくすぐったくなる。
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