日本語が拙い外国人と恋仲になりました
 菅原くんは一度作業する手を止め、おもむろに私の方を向いた。

「……そろそろ、前を向いた方がいいんじゃないですか?」
「は」

 菅原くんの顔を見れば、彼は真剣な眼差しをしていて。

「村岡さん、この前の人と別れて一年が経ちますよね? もう、いい加減忘れましょうよ」
「……なによ、急に。とっくに忘れてる、あんな人」

 たまらず私は目をそらした。
 一時期、沈黙が流れる。

 ──たちまち思い出してしまった。去年のことを。
 一年前、私には大好きだった彼がいた。五歳上で、二年くらい付き合っていたかな。気が利くし、ほどよい距離感を保ってくれるから、すごく居心地がよかった。
 でも──

「ほんと、サイテーっすよね。既婚者(・・・)のクセして、女性をたぶらかして。俺、そういう男が一番許せないっすよ」
「やめて」

 思わず、暗い声になってしまった。
 菅原くんは「すみません」と気まずそうに口を結んだ。

 そう、彼は既婚者だった。気づかなかった私もバカすぎると思う。
 思い返してみれば、不自然な点はいくつもあったの。週末やクリスマス、年末年始になると、何かと理由をつけられていつも会えなかった。彼の家には一度も遊びに行ったことがなかったし。
 ちょっと考えればおかしいって、思うはずなのに。盲目になっていた私は、そんなことにも気がつかなかった。

 ……結局彼の奥さんが妊娠して、向こうから別れを切り出してきた。実は結婚していて、妻が妊娠した。だから別れてほしいって。
 都合がよすぎて、もはや涙も流さなかった。
 ああ、自分はこんな最低な男を好きになるような愚かな女で、見る目がないバカなんだって思った。
 あの頃は全てがどうでもよくなった。
 ホント、笑える。思い出すだけでも反吐が出るよ。
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