日本語が拙い外国人と恋仲になりました
第一章
1・出会い
◆
チョウさんとの出会いは、今から半年ほど前。
紅葉が街中を彩る爽やかな季節。私が働く「シンバシホテル」に新しくフロントスタッフとして彼はやって来た。
「村岡さん。ちょっといいかな?」
午前十時。宿泊客もほぼチェックアウトした時間で、ロビーは静かだ。緩やかな音楽が流れるフロントでパソコン業務をしていると、林支配人が私に声をかけてきた。
いったんキーボードを打つ手を止めて振り返ると、スタッフルームの扉を半開きにしてこちらを見る支配人がいた。
「どうしましたか?」
支配人に手招きをされたので、私はスタッフルームへと入る。
すると──中には、見知らぬ男性がいた。スタッフ用の制服をきっちり着ている。背は高めで、たぶん百七〇後半くらいはありそう。どこか気難しい印象がある細い目で、その男性は私を見ていた。
ああ、もしかしてこの人。
「他館から異動してきた方ですか?」
「そうそう。今日が初出勤なんだよ。支配人補佐として来てもらったんだ」
林支配人は彼に、自己紹介できる? と促した。
新品の革靴で一歩踏み込むと、男性はぎこちなく口を開いた。
「见到你很高兴。我叫赵 东亮」
「……はい?」
なに、なんだって? 今……中国語で名乗ったわよね?
私が戸惑っていると、支配人は苦笑した。
「あっ、チョウさん。なるべく日本語で話してくれると助かるな」
「哎呀。申し訳ない。はじめまして。ワタシは趙 東亮といいます。チョウ トウリョウです」
たどたどしい日本語で、自分の名前を口にする彼──チョウさんを前に、私はぽかんとしてしまう。
チョウさんとの出会いは、今から半年ほど前。
紅葉が街中を彩る爽やかな季節。私が働く「シンバシホテル」に新しくフロントスタッフとして彼はやって来た。
「村岡さん。ちょっといいかな?」
午前十時。宿泊客もほぼチェックアウトした時間で、ロビーは静かだ。緩やかな音楽が流れるフロントでパソコン業務をしていると、林支配人が私に声をかけてきた。
いったんキーボードを打つ手を止めて振り返ると、スタッフルームの扉を半開きにしてこちらを見る支配人がいた。
「どうしましたか?」
支配人に手招きをされたので、私はスタッフルームへと入る。
すると──中には、見知らぬ男性がいた。スタッフ用の制服をきっちり着ている。背は高めで、たぶん百七〇後半くらいはありそう。どこか気難しい印象がある細い目で、その男性は私を見ていた。
ああ、もしかしてこの人。
「他館から異動してきた方ですか?」
「そうそう。今日が初出勤なんだよ。支配人補佐として来てもらったんだ」
林支配人は彼に、自己紹介できる? と促した。
新品の革靴で一歩踏み込むと、男性はぎこちなく口を開いた。
「见到你很高兴。我叫赵 东亮」
「……はい?」
なに、なんだって? 今……中国語で名乗ったわよね?
私が戸惑っていると、支配人は苦笑した。
「あっ、チョウさん。なるべく日本語で話してくれると助かるな」
「哎呀。申し訳ない。はじめまして。ワタシは趙 東亮といいます。チョウ トウリョウです」
たどたどしい日本語で、自分の名前を口にする彼──チョウさんを前に、私はぽかんとしてしまう。