日本語が拙い外国人と恋仲になりました
「アナタの名前はなんですか?」
「あ……はい。村岡 ミキです」
「ムラオカ ミキさん、ですね。よろしくお願いいたします」

 チョウさんは和やかに笑顔を見せる。
 ……見た目に寄らず、話せば穏やかな印象を受けた。
 カタコトの喋りかたのせいか、見た目は三十代くらいで明らかに私よりも歳上なのに、おじさんと話している感じがしない。

「村岡さんにお願いがあるんだけど、チョウさんに仕事を教えてあげてくれないかな」
「えっ、私がですか?」

 支配人は当たり前のように頷く。
 思いがけない話に、私は空笑いした。

「ど、どうして私が……。補佐の仕事なんて知らないし」
「それはすでに僕が教えてあるから。基本的なフロント業務をお願いしたいんだ。村岡さん、中国語喋れるでしょ」
「いえ、話せませんよ?」
「簡単な中国語なら分かるじゃないか。ほら、中華圏からのお客さんの対応だってできるし」
「それは、ほとんど定型文だからであって……」
「ここのスタッフたちは英語は話せても、中国語はあいさつくらいしかできないからねぇ。まあ、よろしく頼むよ。はい、業務命令」

 にこやかに支配人はそう言うけど、目が全然笑ってない。
 うわー。業務命令って。ひどい。
 私が承諾する前に、支配人は「じゃ、あとはよろしく!」と言って、パソコンに向かって作業を始めた。
 いや、お忙しいのは充分に分かりますよ。けどね、なんか、たまたま今日早番だった私が押しつけられてる気がするんですけど。
 ……でもまぁ、仕事だし仕方ないかぁ。

「じゃあチョウさん。まずは朝の業務から教えていきますね。フロントに出ましょう」
「はい。行きます」
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