日本語が拙い外国人と恋仲になりました

6・幸せになる資格がない



 数日後。
 今日は午後から出勤だが、私の頭は未だにボーッとしていた。化粧のりが全く悪い。くすんだ目元のせいで。
 寝不足を隠しきれない顔を鏡で眺めていると、無意識にため息が漏れた。
 もういい。このまま出勤するしかないか……。
 荷物を持ち、家を出発しようと玄関へ向かう。一人暮らしのアパートには「行ってらっしゃい」と見送ってくれる相手がいない。当たり前のことなのに、今日はとても寂しく感じた。

 とぼとぼと駅まで歩く。
 平日の昼間、電車は比較的空いているから快適だ。いつもの車両に乗りこみ、イヤホンで音楽を聴きながら小説でも読もうと読書アプリを開いた。
 最近読んでいるのは、恋愛小説。義兄妹のお話で、想い合っているのにお互いの立場を気にしてなかなか恋に発展しないの。
 妹は孤児院から引き取られた子で、自分が血の繋がりのない娘だと知っているのに知らないふりをしている。兄は家族として妹を大切にしたいと思いながらも、恋心も抱いていて、葛藤しつつ生きている。
「早くくっついちゃえよ!」って頁をめくる度に思う反面、こう、なかなか進展しないのもよかったりする。既視感がある気がしなくもないけども。
 そんな二人にも、やがて心を通わせるときがやってきて。兄が妹に全ての事情を打ち明けたの。お互いにお互いの気持ちはほぼ分かっていたから、その後は家族としてだけじゃなく、恋人としても付き合うようになった。

 ……正直、羨ましいと思った。
 私は、こんな風に誰かと幸せになることは許されない。
< 26 / 93 >

この作品をシェア

pagetop