日本語が拙い外国人と恋仲になりました

8・違和感

 その後は定時で退勤し、自宅へ帰り、軽く晩ごはんを食べてからお風呂に入った。 
 体が重い。明日はせっかくの休みだけど、夜更かしはしないですぐにでも寝よう。

 就寝の準備をしている最中、通勤用の鞄から紅い袋が顔を覗かせているのがふと目に映った。

「そういえばこれ……」

 チョウさんがくれた中国茶葉と朝鮮人参。せっかくだから飲んでみようかな。

 ポットでお湯を沸かし、袋を取り出す。
 乾燥した朝鮮人参を数枚だけカップに投入し、それからお茶を淹れた。湯気から広がる爽やかな香りが、鼻の奥を癒してくれる。
 いただきます、と小さく呟いてから朝鮮人参入りのお茶を啜った。

「……ん。美味しい」

 若干の渋みはあるけれど、結構好きな味かも。後からくる苦味は朝鮮人参のものかな?
 本格的な中国のお茶は初めて飲んだ。コクもあって深みのある味わいだ。
 あっという間にお茶を飲み干し、私はふっと微笑んだ。

 さっきのチョウさんの態度を思い出す。

 この前のことなんてまるで忘れているかのようだった。国民性なのか、はたまた彼の根っからの性格なのか分からないけれど、さっさと気持ちを切り替えられるって凄いわよね。
 いつも通りの陽気さが逆に安心した。

 チョウさんとシフトが重なっていても、もう憂いはない。
 私も気持ちを切り替えて、通常通りに仕事をしていこう。

《チョウさん、お茶と朝鮮人参をありがとうございました。さっそくいただきました。とても美味しかったです。夜勤、がんばってくださいね》

 メッセージを送信してから、私はベッドに横たわった。

 夜勤が終わった頃、きっとすぐ返事をくれるんだろうな。彼はいつも返信が早いから。
 また来週、チョウさんと仕事をするのが楽しみにすらなってきた。

 心がほっとあたたかくなる。私はその夜、すぐに眠りに落ちていった。 
 ──だけど私は、すぐに違和感を覚えることになる。
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