日本語が拙い外国人と恋仲になりました
 あれこれ考えながらも、僕は急いで荷造りをし、上海行きの航空券を片道(・・)だけ取った。
 生憎、翌日の直行便は売り切れていた。最も早いルートとなると、韓国経由で行くしかないようだ。翌日に東京を出発して、韓国には深夜着となる。朝一の便に乗り継ぎをすると、上海到着は明後日になってしまう。こんなときに限って最速ルートで帰国できないなんて……もどかしい。

 さまざまなことが頭の中を巡り、夜はなかなか寝つけなかった。
 故郷までの長い道のりの中、何を思い、何を考えていたかも全く記憶にない。

 父から連絡を受け、丸二日が経った。やっとの思いで母のいる病院へと辿り着いた。大きな荷物をそのまま持ち込み、僕が病室へ駆け込むと──

 母はすでに亡くなっていた。

 ベッドの上で横たわる彼女は、穏やかな表情をしていた。ただ単に眠っているだけで、死んでしまったなんて嘘に見える。
 そのうち目を覚まして「東亮、わざわざ来たのか。心配性だね」なんて言いそうなのに。
 でも、彼女の手を握ると、虚しいほどにぬくもりが感じられなかった。
 不思議と涙は出てこない。「悲しい」という感情すら湧いてこない。
< 62 / 93 >

この作品をシェア

pagetop