日本語が拙い外国人と恋仲になりました
 呆然とする僕の横で、父が静かに口を開いた。

「葬儀が終わったら、お前は日本に戻りなさい」

 淡々とした口調だった。
 僕は目を見開き、上海語で言い返す。

「なぜ? しばらくは、ここにいるよ」
「仕事はどうする。日本のホテルで頑張っていると話していただろう?」
「そんなの、休みをもらってるから大丈夫だよ。落ち着いたときに責任者には連絡をするつもりだ」
「いいから、向こうへ戻りなさい」
「な、なんで……?」

 頑なに父は頷いてくれない。
 思わず僕は、眉間にしわを寄せた。

「でも……父さんに何かあった時が心配だ。僕が日本にいたら、すぐに駆けつけてやれないし」
「おれを見ろ。まだまだ元気なんだ。一人で暮らしていける。とにかく、お前は好きなように生きなさい」

 押し問答を続けても、頑固親父は僕の意見など一切聞き入れはしない。

 束の間の静寂。病室内は、滅入りそうなほど暗い雰囲気になってしまう。
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