日本語が拙い外国人と恋仲になりました

15・久しぶりの会話

 その一文を見て、思考が一時停止してしまう。何度も何度も目をこすった。
 待って。違うよ。もしかしたら、私の読み間違いかもしないでしょ?
 息が上がる。激しい心音が耳元まで響く。
 もう一度メッセージを確認してみた。
「辞职」。
 これは確実に「仕事を辞める」という意味だ。どう足掻いても別の意味で捉えることはできないし、チョウさんが誤ってメッセージを書き込んだとも思えない。
 どれだけ目を背けても、信じがたい現実を突きつけられてしまう。

「どうして……?」

 無意識に声が震えた。

「チョウさん、仕事を辞めたいの……?」

 スマートフォンに向かって問いただしても、チョウさんから返事をもらえるわけじゃない。
 いてもたってもいられない。いい加減、連絡をしなきゃ。この際、電話をしてみよう。
 アプリ上の電話マークをタップしようと、親指を動かす。
 あれこれ考えるのは一旦やめにして。前に進んで。何よりも私は、チョウさんの声が聞きたい。
 深呼吸して。いざ、通話ボタンをタップした。
 スマートフォンから規則正しく鳴り響く呼び出し音。聞き慣れたものなのに、今日ばかりは胸の鼓動を上げるメロディと化していた。
 一コール、二コール、三コール。
 四コール目が鳴った頃、やっぱり出てくれないんじゃないか、という不安がよぎった。
 そのときだった。

『喂』

 電話口から、低い男性の声が聞こえてきた。少しだけ力の抜けたような声色だけど、たしかに間違いない。

 チョウさんだ。チョウさんの声だ。
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