日本語が拙い外国人と恋仲になりました
 ムラオカさんの会いたい人って、一体誰なんだろう。海外へ一度も行ったことがないと言っていた彼女が、そうまでして中国に来るなんて……。
 まだ上海(ここ)にいるのか?

 僕はスッと立ち上がり、拳を握った。なぜか冷や汗が滲み出る。
 もう、雑念はいらない。いてもたってもいられないんだ。
 たとえ彼女の会いたい人が僕じゃなくても、僕の心は一目でいいから彼女に会いたいと暴れている。 

 ジャケットを羽織り、僕は急いで玄関へ向かった。
 その途中キッチンを通りかかると、炒め物のいい香りが漂ってきた。

「父さん、ちょっと出かけてくるよ」
「ああ? もうすぐ料理が終わるぞ」
「悪い。先に食べていてくれ」
「おい、どこへ行くんだ?」
「ええっと。大事な友だちに会いに行ってくるよ!」

 僕はまた、周りが見えなくなっている。何をすべきか考える前に、先に行動してしまうんだ。
 もし彼女がまだ上海にいるのなら、今すぐに会いたい──

 無我夢中で僕は街へ駆け出した。
 いつの間にか空には丸い月が顔を出していた。
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