日本語が拙い外国人と恋仲になりました

20・最後のチャンス

 地下鉄に乗り込み、僕は南京东路駅を目指した。外滩の最寄り駅だ。
 時刻は夜の七時。
 彼女がそこにいるとは限らない。そもそもあの番組がいつ撮影されたのかも分からない。
 でも……テレビに映っていたのは、たしかにムラオカさんだった。なんとなくだけど、彼女はまだ上海に滞在している気がするんだ。

 手すりに掴まりながら、僕はおもむろにスマートフォンを取り出す。メッセージアプリを開き、文字を打とうと指先を動かした。
 ここで行動しないと、僕はきっと後悔してしまう。返事が来ても来なくてもいい。とにかく何かアクションを起こさないと気が済まないんだ。

《你现在在上海吗?》

 アナタは上海にいるのですか、と途中まで入力してから一度文字を削除する。
 落ち着け。ここは、しっかりと日本語でメッセージを送るんだ。
 日本語は苦手だけれど、彼女のためにも頑張りたい。
 言語入力を切り替え、ゆっくりと文字を打ち直した。

《ムラオカさん、連絡してください。アナタは今、上海にいますか?》

 こんな短文を打つだけでも、五分くらいはかかる。
 我ながら笑えるよ。
 入力を終えてから、しばらく考え込んだ。
 本当に、これでいいのか? こんな内容を送って、驚かれないか? 嫌がられないか?
 彼女が中国に来たことを、なぜ僕が知ったのかも伝えた方がいいかも。でなければ、このメッセージを見た時彼女は引いてしまうだろう。
 やはりここは《どこにいますか?》に変えた方がいいんじゃないかな。
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