私と僕の、幸せな結婚までのお話
婚約破棄
召喚の日から十日程経った教会での「お勉強」の日、私は聖女様との面会を希望しました。
するとジョン大司教様は沈痛な面持ちで、聖女様は召喚の日以来誰とも話をせずお食事もほとんど取っていらっしゃらないと話し、すぐに私たちを聖女様の部屋へ案内してくださいました。
本来なら面会など許してもらえないのでしょうが、目に見えて弱っていく少女を持て余した教会は、私が面会を申し出たことで渡りに船とばかりに今度は私や王家に責任転嫁しようとしているのでしょう。
聖女様のお部屋に入った私は、寝台の隅で怯え切って震えている聖女様に日本語で話しかけました。
[もう大丈夫よ、助けに来たわ]
ジョン大司教様やフィリップ様はじめ周囲の驚愕は言うまでもありませんが、そんなことはさておき、泣きながら私にしがみ付いて離れない聖女様を小さな体で抱きかかえ、ジョン大司教様の制止を振り切って王宮に戻りました。
王宮に戻るとすぐに私は勝手に聖女様を連れ出したことを国王王妃両陛下に一生懸命お詫びしました。
泣きながらまだ拙い言葉で、可哀想な聖女様を残して帰る事は出来なかったという私に、王妃陛下は『よくできました』褒めて下さり、『後始末は大人たちに任せて、あなたは聖女様のお世話をお願いね』と優しく頭を撫でて下さいました。
私の暴挙にジョン大司教様から聖女様の誘拐として厳重な抗議が王室とブルク侯爵家に届いたようですが、憔悴しきった聖女様は王宮医師の診察で極度の栄養失調の診断と絶対安静を指示されたことで、大切な聖女様の命をまたもや脅かしたとして、王家から教会へ厳重な責任追及の沙汰が下され、聖女様は当面王宮管理となったのです。
聖女様は「心美」というお名前でした。
この世界では「ココミ」は発音し難いため、改めて聖女ココ様と呼ばれるようになりました。
外見から7、8歳かと思っていましたがココ様は10歳でした。
生まれた時から病気がちで年齢に体の成長が追いつかなかったようです。
日本では有数の大旧家のお家柄で、健康な跡取りが必要だとして実のお母さんは小さい頃に生家に戻り、後妻さんが嫁いできて以来ココ様は病弱を理由にずっとご家族の経営する小児病院の特別室で暮らしていたそうです。
私が入っていたホスピスと同じ系列の小児用ホスピスに入ったのは1か月ほど前で、ただの転院だと思っていた様です。ホスピスがどういう所か知らずに入ったことには安堵しましたが、ホスピスではみんながとても優しくてご飯がとてもおいしかったことや、病院着ではなく、初めて着た落ち着いた淡いピンクの可愛いパジャマがうれしかったと聞いて、やはり胸が痛みました。
★★★
召喚の日から1年、ココ様は王宮で離れて暮らしている私の元へ頻繁に訪れるお父様とマリアお母様と弟たちにも大切にされ、「なんだか私も家族の一員みたい」と楽しそうに過ごせるようになりました。
健康な体で動き回れることが何よりもうれしいと話すときの、はじけるような笑顔がとても愛らしいのです。
さて、無事に回復した聖女様を奪還すべく様々な言いがかりをつけていた教会がそろそろしびれを切らして物理的に何か行動を起こして来る頃でしょう。
その前にココ様の立場を確立しておかなければなりませんね。
ココ様の体調が戻って以来、フィリップ様とのお茶会にはココ様もいつも同席してもらっていました。
理由は、フィリップ様がココ様に一目惚れをしたから。
現在7歳の見た目で意識は48歳の私にとって、見た目年齢が同い年のフィリップ様は嬉しそうにウナギを食べていた孫と同じに見えてしまうのです。
婚約者のいる王子様として一生懸命隠しているけれど、ココ様と話している時の目の輝きは隠せないのです。
ココ様もそんなフィリップ様の気持ちに気付いている様で、戸惑いながらも芽生えてしまった恋心をこちらも一生懸命隠そうとしています。
幼い二人の恋をほほえましく見ている私とは裏腹に、気づいた周囲の大人たちはフィリップ様とココ様をそれとなく引き離そうとしているようです。
おばあちゃまは孫のためにひと肌脱ぐと致しましょう。
☆彡☆彡☆彡
私の8歳の誕生日のガーデンパーティの席で、私はちょっとした細工をしていました。
水槽に水を入れ、太陽の光を反射させて虹を出現させるという、理科の実験を応用したものです。
それはパーティーの参加者が見守る中、神託を受けたことを確固たる事実として知らしめるため。
もちろん、お父様とマリアお母様、お祖父様のワイマー大公閣下と国王王妃両陛下には前世の記憶と、フィリップ様とココ様の事も含めて年齢以外の全てを話して協力を仰いでいます。
お祖父様のワイマー大公閣下とは、なんだかお茶飲み友達の様な親近感が心地よく、ちょっと腹黒な相談などを持ち掛ける私を面白そうに眺めていらっしゃいます。
一方、お父様とマリアお母様にはフィリップ殿下との婚約解消が私の心の傷にならないかと、とても心配をかけてしまいました。
でもね、私はきっと大丈夫。
誕生日会当日は、まるで女神様が味方をしてくれているような雲一つない快晴でした。
王家の婚約者であり、「準聖女」でもある私の誕生日を祝うパーティーともなれば、王家を始め主だった高・中位貴族家を招いた大規模なものとなります。
暖かな日差しを受け、華やかに咲き誇る春の花々に彩られたガーデンパーティは和やかに進んで行きました。
その最中、私が皆の注目を集めるように庭の中心でその場に手を前に組んで跪いた瞬間、虹が出現して私の廻りを包みました。
マリアお母様が手ずから銀糸で刺繍を施してくれた純白のドレスに反射した虹は、幾重にも重なったレースを通してキラキラと輝いています。
その様子と8歳の少女らしからぬ落ち着きすぎた佇まいと低い声音により、その場のすべての人々が息を飲み跪きました。
参加していた国王王妃両陛下までもが首を垂れる様子に、ジョン大司教様も神託を否定することが出来ず祈りの姿勢を取っています。
女神様曰く、
侯爵令嬢ルイーゼは聖女ココの助けとするべくこの世に生を授け、聖女様と同じ異世界の英知を与えた。
聖女ココの英知は広く王国民に提供されるものであり、教会の中で奇跡を生み出す類いの物ではない。
聖女ココは王族の伴侶となり、国のためにその英智と奇跡を広く公開するために選ばれた。
そして、聖女の降臨は聖女ココが最期だと。
大司教様が祈りを捧げるように私の前に跪き、私だけに聞こえるように小声で囁いています。
女神を騙る大罪? 神罰が当たる? 地獄に落ちる?
あら、ご自身への予言かしらと呟くと、悪鬼のような表情で睨み据えられました。
まぁ怖い。
私は大丈夫だわ、たぶん。
「お勉強」と称して教会に赴いて得ていた状況から、教会は長年に渡り召喚した少女たちの記憶を奇跡と称して富と名声を得ていることを確信していました。王妃陛下の前聖女様の救出劇から明らかになった長年に渡る教会の悪行。
突然召喚されて行き場もなく頼る者のない少女たちを懐柔し、質素すぎる生活を強いて利用した上、尊厳まで蹂躙する聖職者にあるまじき行為を、私は絶対に許せなかったのです。
私が前世であろう記憶を思い出し、今昔の聖女たちの待遇をおかしいと気づいて、一人だけだとしても助け出せたことこそ、きっと女神様のご意思なのですもの。
この国で不遇のうちに女神様の下に召された聖女様たちの魂は女神様がお救い下さると信じています。
そして国王陛下の命により、既に召喚儀式の間の魔方陣は秘密裏に破壊されています。
そして式の手順を記した巻物はすり替えられて王宮に届けられ、本物は国王陛下の見守る中、王妃陛下手ずから焼き払われたと聞かされました。
信託の通り、もう二度と聖女という不幸な少女を生み出す事のないように。
虹が消え、神託を終えた私はその場で気を失いました。(もちろん演技)
そのままパーティーはお開きになりましたが、この衝撃的な神託の奇跡の噂は瞬く間に社交界中に広がり、その日のうちに私は神託の巫女と呼ばれるようになりました。
そして、女神様のご神託であるココ様の伴侶となる王族のお相手が誰なのかという噂でもちきりとなりました。
現在王国内の未婚の王族は第四王子のフィリップ殿下しかいません。
しかしフィリップ殿下は既に婚約しており、その婚約者であり神託の巫女となったブルク侯爵令嬢ルイーゼ様は一体どうなるのか。
貴族たちは固唾を呑んで発表を待っていました。
フィリップ殿下とココ様は虹が消えて神託を終え、意識のない私が運び込まれた寝室の前で私が目覚めるまで待ってくれていました。
幼い二人に必要以上に心配をかけてはいけませんね。
私が目覚めたと聞いて寝室に案内された二人に、私は明るく声を掛けました。
「お見舞いありがとうございます。
私、最近の記憶が曖昧でごめんなさい。私たちお友達だったのかしら?
お名前を伺ってもよろしくて?」
侍女から、第四王子のフィリップ殿下と聖女ココ様ですよと告げられて慌てて礼を執ろうとした私は二人に押しとどめられました。
「こんなに素敵なお二人とお友達だったなんて、私、とっても果報者だったのですね!」
目をキラキラさせて話をする私に、二人は困惑した表情を見せながらも優しく接してくれました。
しばらくお話をしましたが、フィリップ様もココ様も、私がフィリップ様の婚約者だったことは告げずに帰っていきました。
「本当にこれで良かったのか?」
二人と入れ替わりに部屋に入って来たお父様とマリアお母様に抱きしめられ、一緒に入って私の手を握っているお祖父様のワイマー侯爵閣下にそっと聞かれました。
お祖父様には、フィリップ殿下が孫にしか見えないと打ち明けた時には苦笑いをされたのだけれど、やはり心配そうに顔を覗きこんでいます。
「えぇ、これで良かったのです。
大丈夫です。頑張った私にはこれから女神さまのご褒美があるかもしれません。」
そう言って微笑んで、安心させるためにちょっとだけ前世の思い出をお話ししました。
後日、神託の巫女であるブルク侯爵家ルイーゼ嬢は、女神に与えられた役目を終えて、聖女に関わる一切とその間の記憶を全て女神様へお返ししたと発表されました。
そして、ルイーゼ嬢の記憶にない第四王子フィリップ殿下との婚約は白紙となり、女神様の神託通りフィリップ殿下は聖女ココ様と共に国の繁栄のために尽くすことになると。
するとジョン大司教様は沈痛な面持ちで、聖女様は召喚の日以来誰とも話をせずお食事もほとんど取っていらっしゃらないと話し、すぐに私たちを聖女様の部屋へ案内してくださいました。
本来なら面会など許してもらえないのでしょうが、目に見えて弱っていく少女を持て余した教会は、私が面会を申し出たことで渡りに船とばかりに今度は私や王家に責任転嫁しようとしているのでしょう。
聖女様のお部屋に入った私は、寝台の隅で怯え切って震えている聖女様に日本語で話しかけました。
[もう大丈夫よ、助けに来たわ]
ジョン大司教様やフィリップ様はじめ周囲の驚愕は言うまでもありませんが、そんなことはさておき、泣きながら私にしがみ付いて離れない聖女様を小さな体で抱きかかえ、ジョン大司教様の制止を振り切って王宮に戻りました。
王宮に戻るとすぐに私は勝手に聖女様を連れ出したことを国王王妃両陛下に一生懸命お詫びしました。
泣きながらまだ拙い言葉で、可哀想な聖女様を残して帰る事は出来なかったという私に、王妃陛下は『よくできました』褒めて下さり、『後始末は大人たちに任せて、あなたは聖女様のお世話をお願いね』と優しく頭を撫でて下さいました。
私の暴挙にジョン大司教様から聖女様の誘拐として厳重な抗議が王室とブルク侯爵家に届いたようですが、憔悴しきった聖女様は王宮医師の診察で極度の栄養失調の診断と絶対安静を指示されたことで、大切な聖女様の命をまたもや脅かしたとして、王家から教会へ厳重な責任追及の沙汰が下され、聖女様は当面王宮管理となったのです。
聖女様は「心美」というお名前でした。
この世界では「ココミ」は発音し難いため、改めて聖女ココ様と呼ばれるようになりました。
外見から7、8歳かと思っていましたがココ様は10歳でした。
生まれた時から病気がちで年齢に体の成長が追いつかなかったようです。
日本では有数の大旧家のお家柄で、健康な跡取りが必要だとして実のお母さんは小さい頃に生家に戻り、後妻さんが嫁いできて以来ココ様は病弱を理由にずっとご家族の経営する小児病院の特別室で暮らしていたそうです。
私が入っていたホスピスと同じ系列の小児用ホスピスに入ったのは1か月ほど前で、ただの転院だと思っていた様です。ホスピスがどういう所か知らずに入ったことには安堵しましたが、ホスピスではみんながとても優しくてご飯がとてもおいしかったことや、病院着ではなく、初めて着た落ち着いた淡いピンクの可愛いパジャマがうれしかったと聞いて、やはり胸が痛みました。
★★★
召喚の日から1年、ココ様は王宮で離れて暮らしている私の元へ頻繁に訪れるお父様とマリアお母様と弟たちにも大切にされ、「なんだか私も家族の一員みたい」と楽しそうに過ごせるようになりました。
健康な体で動き回れることが何よりもうれしいと話すときの、はじけるような笑顔がとても愛らしいのです。
さて、無事に回復した聖女様を奪還すべく様々な言いがかりをつけていた教会がそろそろしびれを切らして物理的に何か行動を起こして来る頃でしょう。
その前にココ様の立場を確立しておかなければなりませんね。
ココ様の体調が戻って以来、フィリップ様とのお茶会にはココ様もいつも同席してもらっていました。
理由は、フィリップ様がココ様に一目惚れをしたから。
現在7歳の見た目で意識は48歳の私にとって、見た目年齢が同い年のフィリップ様は嬉しそうにウナギを食べていた孫と同じに見えてしまうのです。
婚約者のいる王子様として一生懸命隠しているけれど、ココ様と話している時の目の輝きは隠せないのです。
ココ様もそんなフィリップ様の気持ちに気付いている様で、戸惑いながらも芽生えてしまった恋心をこちらも一生懸命隠そうとしています。
幼い二人の恋をほほえましく見ている私とは裏腹に、気づいた周囲の大人たちはフィリップ様とココ様をそれとなく引き離そうとしているようです。
おばあちゃまは孫のためにひと肌脱ぐと致しましょう。
☆彡☆彡☆彡
私の8歳の誕生日のガーデンパーティの席で、私はちょっとした細工をしていました。
水槽に水を入れ、太陽の光を反射させて虹を出現させるという、理科の実験を応用したものです。
それはパーティーの参加者が見守る中、神託を受けたことを確固たる事実として知らしめるため。
もちろん、お父様とマリアお母様、お祖父様のワイマー大公閣下と国王王妃両陛下には前世の記憶と、フィリップ様とココ様の事も含めて年齢以外の全てを話して協力を仰いでいます。
お祖父様のワイマー大公閣下とは、なんだかお茶飲み友達の様な親近感が心地よく、ちょっと腹黒な相談などを持ち掛ける私を面白そうに眺めていらっしゃいます。
一方、お父様とマリアお母様にはフィリップ殿下との婚約解消が私の心の傷にならないかと、とても心配をかけてしまいました。
でもね、私はきっと大丈夫。
誕生日会当日は、まるで女神様が味方をしてくれているような雲一つない快晴でした。
王家の婚約者であり、「準聖女」でもある私の誕生日を祝うパーティーともなれば、王家を始め主だった高・中位貴族家を招いた大規模なものとなります。
暖かな日差しを受け、華やかに咲き誇る春の花々に彩られたガーデンパーティは和やかに進んで行きました。
その最中、私が皆の注目を集めるように庭の中心でその場に手を前に組んで跪いた瞬間、虹が出現して私の廻りを包みました。
マリアお母様が手ずから銀糸で刺繍を施してくれた純白のドレスに反射した虹は、幾重にも重なったレースを通してキラキラと輝いています。
その様子と8歳の少女らしからぬ落ち着きすぎた佇まいと低い声音により、その場のすべての人々が息を飲み跪きました。
参加していた国王王妃両陛下までもが首を垂れる様子に、ジョン大司教様も神託を否定することが出来ず祈りの姿勢を取っています。
女神様曰く、
侯爵令嬢ルイーゼは聖女ココの助けとするべくこの世に生を授け、聖女様と同じ異世界の英知を与えた。
聖女ココの英知は広く王国民に提供されるものであり、教会の中で奇跡を生み出す類いの物ではない。
聖女ココは王族の伴侶となり、国のためにその英智と奇跡を広く公開するために選ばれた。
そして、聖女の降臨は聖女ココが最期だと。
大司教様が祈りを捧げるように私の前に跪き、私だけに聞こえるように小声で囁いています。
女神を騙る大罪? 神罰が当たる? 地獄に落ちる?
あら、ご自身への予言かしらと呟くと、悪鬼のような表情で睨み据えられました。
まぁ怖い。
私は大丈夫だわ、たぶん。
「お勉強」と称して教会に赴いて得ていた状況から、教会は長年に渡り召喚した少女たちの記憶を奇跡と称して富と名声を得ていることを確信していました。王妃陛下の前聖女様の救出劇から明らかになった長年に渡る教会の悪行。
突然召喚されて行き場もなく頼る者のない少女たちを懐柔し、質素すぎる生活を強いて利用した上、尊厳まで蹂躙する聖職者にあるまじき行為を、私は絶対に許せなかったのです。
私が前世であろう記憶を思い出し、今昔の聖女たちの待遇をおかしいと気づいて、一人だけだとしても助け出せたことこそ、きっと女神様のご意思なのですもの。
この国で不遇のうちに女神様の下に召された聖女様たちの魂は女神様がお救い下さると信じています。
そして国王陛下の命により、既に召喚儀式の間の魔方陣は秘密裏に破壊されています。
そして式の手順を記した巻物はすり替えられて王宮に届けられ、本物は国王陛下の見守る中、王妃陛下手ずから焼き払われたと聞かされました。
信託の通り、もう二度と聖女という不幸な少女を生み出す事のないように。
虹が消え、神託を終えた私はその場で気を失いました。(もちろん演技)
そのままパーティーはお開きになりましたが、この衝撃的な神託の奇跡の噂は瞬く間に社交界中に広がり、その日のうちに私は神託の巫女と呼ばれるようになりました。
そして、女神様のご神託であるココ様の伴侶となる王族のお相手が誰なのかという噂でもちきりとなりました。
現在王国内の未婚の王族は第四王子のフィリップ殿下しかいません。
しかしフィリップ殿下は既に婚約しており、その婚約者であり神託の巫女となったブルク侯爵令嬢ルイーゼ様は一体どうなるのか。
貴族たちは固唾を呑んで発表を待っていました。
フィリップ殿下とココ様は虹が消えて神託を終え、意識のない私が運び込まれた寝室の前で私が目覚めるまで待ってくれていました。
幼い二人に必要以上に心配をかけてはいけませんね。
私が目覚めたと聞いて寝室に案内された二人に、私は明るく声を掛けました。
「お見舞いありがとうございます。
私、最近の記憶が曖昧でごめんなさい。私たちお友達だったのかしら?
お名前を伺ってもよろしくて?」
侍女から、第四王子のフィリップ殿下と聖女ココ様ですよと告げられて慌てて礼を執ろうとした私は二人に押しとどめられました。
「こんなに素敵なお二人とお友達だったなんて、私、とっても果報者だったのですね!」
目をキラキラさせて話をする私に、二人は困惑した表情を見せながらも優しく接してくれました。
しばらくお話をしましたが、フィリップ様もココ様も、私がフィリップ様の婚約者だったことは告げずに帰っていきました。
「本当にこれで良かったのか?」
二人と入れ替わりに部屋に入って来たお父様とマリアお母様に抱きしめられ、一緒に入って私の手を握っているお祖父様のワイマー侯爵閣下にそっと聞かれました。
お祖父様には、フィリップ殿下が孫にしか見えないと打ち明けた時には苦笑いをされたのだけれど、やはり心配そうに顔を覗きこんでいます。
「えぇ、これで良かったのです。
大丈夫です。頑張った私にはこれから女神さまのご褒美があるかもしれません。」
そう言って微笑んで、安心させるためにちょっとだけ前世の思い出をお話ししました。
後日、神託の巫女であるブルク侯爵家ルイーゼ嬢は、女神に与えられた役目を終えて、聖女に関わる一切とその間の記憶を全て女神様へお返ししたと発表されました。
そして、ルイーゼ嬢の記憶にない第四王子フィリップ殿下との婚約は白紙となり、女神様の神託通りフィリップ殿下は聖女ココ様と共に国の繁栄のために尽くすことになると。