Starry Flight, I Will Remember You
「元気だった?」 私がそう声をかけると、彼は驚いたように目を見開いた。

ほんの一瞬、時が止まったように感じる。

やがて、その瞳に懐かしい光が宿り、ゆっくりと笑みが浮かんだ。

「まあ…」

彼は短く答え、少し肩をすくめる。その仕草は昔と変わらない。

「そっちは?」

私は息を整えるようにして、笑顔を作った。

「相変わらず忙しいよー。」

言葉にすると軽い響きになるけれど、胸の奥では、彼にだけは本当の疲れや孤独を打ち明けたい衝動があった。

けれど、それはもう許されないことだと分かっている。

「今はどこに住んでるの?」

思わず問いかけてしまう。

彼の生活を知りたい気持ちが、抑えきれずに溢れた。

「アメリカ。」

短い答え。

けれどその響きは、遠さを突きつける。

私の知らない日々を、彼はそこで生きている。

「じゃあこれは?」

私は少し身を乗り出す。

彼の手元にあるこの便のチケットや書類が目に入ったからだ。

「今日から、出張なんだ。」

彼は窓の外に視線を投げながら答えた。

その横顔は、昔と同じように少し寂しげで、けれど今はもう私のものではない。

「そっか。」

言葉にすると、あまりにも軽い。

心の奥ではもっと多くを伝えたいのに、口から出るのは短い音だけ。

少し間があって、彼が口を開いた。

「…あのさ、」

その声は低く、ためらいがちで、何か大切なことを言おうとしているのが分かった。

「なに?」

私は息を呑む。

心臓が早鐘を打つ。

彼の言葉の続きを待つ間、機内の時間が止まったように感じられた。

――その瞬間。

「有希さん、こちらお願いします!」

背後から同僚の声が響いた。

呼ばれている。

仕事が最優先。

私は慌てて笑顔を作り、彼に向き直る。

「…あ、いや、なんでもない。」

彼はそう言って、視線を逸らした。

もやもやが胸に残る。

けれど、相手は乗客。

私は「失礼します」と頭を下げ、仕事へと歩き出した。

心の奥では、彼の言葉の続きを何度も想像しながら。
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