五つ子家庭教師は全員イケメン執事でした

第13話 侵入者の影。五つ子の本気の護衛

その夜、あやめは眠れず、ソファでぼんやりテレビを眺めていた。
母の資料のこと、盗みに来た何者かのこと…
不安が胸につかえて、落ち着かない。

その時。

カチッ。

家の奥のほうで、微かに何かが動く音がした。

「え……?」

テレビではなく、確かに家のどこかから聞こえる音。

階段の影が妙に暗く見えて、背筋が凍る。

次の瞬間…

トン、と静かに足音がした。

(誰か……いる……?)

手が震え、声を出すこともできないでいると、
横から大きな影がすっとあやめを包んだ。

長男・海斗だった。

「声を出さないでください。すぐに守ります」

海斗の腕があやめの肩を包み、ソファの後ろにかがませる。
その顔はいつもの優しさを消し、冷静で鋭い。

「侵入者です。……蒼真」

呼ばれた瞬間、三男・蒼真が無音でリビングに現れた。

「二階の窓。ロックが外されてる。足跡も新しい」

「やはり……」
海斗の目が細くなる。

次男・陽太が全力で駆け込んでくる。

「海斗! 誰か入ったってマジか!?」

「陽太、声を抑えろ。お嬢様が驚く」

「っ……悪い」

続いて四男・律が携帯端末を操作しながら入室。

「外周カメラに反応あり。黒いフードの人物が庭を横切っています。まだ敷地内です」

五男・優真はあやめのそばに膝をつき、
震える手をそっと包んだ。

「大丈夫だよ。こわいなら目つぶって」

優真の声は優しいのに、かすかに震えている。



海斗の声が低く響いた。

「全員、配置につけ。敵の目的はデータの確認。接触はさせるな」

その瞬間、五人の空気が変わった。

陽太は廊下へ走り出し、
蒼真は窓辺へ無音で移動し、
律は警備システムを手動で操作しながら指示を飛ばす。

「裏庭側、動きあり。蒼真、回り込んで」

「了解」

「陽太、侵入口を塞いで」

「任せろ!」

優真はあやめの前にしゃがみ、
小さく息をつきながら言う。

「こわいよね……でも大丈夫。五人いるから」

胸が熱くなる。




家の外で、草を踏む音がした。

ザッ……ザッ……

海斗がそっとカーテンの隙間から覗く。

「……確かに動いています。手に工具のようなものを持っている。
あれは……窓をこじ開けるための特殊工具です」

(そんなもの……どうして……)

陽太の怒った声が廊下から響く。

「ふざけんな……あやめを狙うとか、絶対に許さねぇ!」

律が冷静に告げる。

「陽太、落ち着いて。挑発には乗らないで」

「分かってるけど……!」

蒼真が無線越しに低く言った。

「侵入者、南側へ移動。逃げる気はない。……来る」

海斗があやめの手を握った。

「ここからは、絶対に離れないでください」

「……うん」

胸が強く脈打つ。

怖くてたまらないのに、
なぜか五人の背中が頼もしく見えた。


バンッ!

窓の外で何かが大きくぶつかる音。
優真があやめを抱き寄せ、律が前に立つ。

陽太が叫ぶ。

「来た!! 海斗、あやめを守れ!」

海斗が短く答える。

「当然です」

五つ子の影が一斉に敵へ向かって走った。

その背中は、
家庭教師でも執事でもなく

あやめを守るために生きてきた
本物の護衛の姿だった。
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