五つ子家庭教師は全員イケメン執事でした

第14話 追跡。海斗が見た過去の影

侵入者が窓を叩き割ろうとした瞬間、
三男・蒼真が庭へ飛び出した。

続いて陽太、律、優真が持ち場につき、
家の中には一瞬の静寂が落ちる。

海斗はあやめを優真に預け、静かに告げた。

「お嬢様を頼みます。……私は追います」

「海斗……危ないよ!」

「あなたを守るためです。
私たちは、これ以上逃がすわけにはいきません」

その言葉とともに、海斗の瞳から執事の優しさが消えた。

完全な護衛の顔だった。



海斗が外に出ると、庭に夜風が強く吹いていた。

黒い影がフェンスの向こうへ飛び越えようとしている。

海斗は迷わず駆け出した。

「待ちなさい。……あなたの目的は分かっています」

侵入者は振り返り、フードの奥で不気味に笑ったように見えた。

言葉は返ってこない。

代わりに、手にした細い金属器具をこちらへ向けて構える。

カチッ。

ピシッ!!

地面がほんのわずかに火花を散らした。

陽太が叫んだ通り、それは窓用の特殊工具。
触れれば皮膚ごと裂ける危険なものだった。

しかし海斗は怯まない。

「……あなたの雇い主は誰です?」

返事はない。
代わりに侵入者は走り出した。

海斗が追う。

舗装された路地を曲がり、薄暗い坂を駆け下りる。
月明かりが追跡の影を映し出す。

「逃がしません」


追い詰めた角で、侵入者がふいに足を止めた。

海斗も構えをとる。

「君は……その手の振り。足の運び。
……まさか、あの時の雪城家の残党か?」

フードの奥で、侵入者の肩が小さく揺れる。

(あの時……?)

海斗の脳裏に走るのは、
雪城家が過去に追われ、壊されかけたあの事件。

そして、その事件から救い出してくれたのが
他でもない 朝比奈あやめの母 だった。

海斗は敵をにらみつけて問いかけた。

「なぜ朝比奈グループを狙うのか?
雪城家への恨みか……それとも単純に金か?」

また沈黙。

だがその時、侵入者はポケットから何かを取り出した。

ピッ。

小さな端末が光った途端
周囲の街灯が一斉に明滅し、煙が上がった。

「しまった……!」

海斗が飛びかかった瞬間、
侵入者の姿は煙の向こうへかき消えてしまった。

完全に逃げられた。



煙が薄れた時、地面にひらりと一枚の紙が落ちていた。

海斗が拾い上げる。

そこには
手書きの字で、はっきりとこう書かれていた。

『人質:朝比奈あやめ』

海斗の眉がわずかに震えた。

「……朝比奈あやめお嬢様を狙っている」

それは、疑いではなく確信。

海斗は紙を強く折りたたみ、胸に押し込んだ。

「必ず守る。……あの時のように、誰も何も失いたくない」

< 15 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop