五つ子家庭教師は全員イケメン執事でした

第23話 小さな嫉妬は日常のスパイス

朝のダイニング。

あやめがトーストに蜂蜜をかけていると、
優真がふわっと微笑みながら近づいた。

「はい、あやめちゃん。ナイフ貸して」

「ありがと、優真」

蜂蜜を塗り替えてくれる手つきが優しくて、
思わず見とれてしまう。

そこへ——

「おい、優真。近すぎない? 朝からベタベタしすぎ」

次男・陽太が割り込んできた。

「別にいいじゃん。あやめちゃんが嫌って言わないなら」

「……は? 嫌じゃねーけど、そういう問題じゃねぇし」

あ、陽太のツンデレスイッチが入った。

優真は涼しい顔で笑った。

「陽太兄、やきもち?」

「は!? しねぇよ!!」

耳が赤い……完全に嫉妬してる。


学校から帰ったあやめがソファに座ると、
三男・蒼真が無言で隣に来て、
あやめの髪に小さな埃を見つけて取ってくれた。

「……ついてた」

「ありがと、蒼真」

それだけで心臓が跳ねる。

そこへ律が登場し、にこやかに言った。

「蒼真くん、距離が近いですよ。
あやめさんが照れてしまうじゃないですか」

「……別にいい」

「よくありません。僕も隣に座りたいので」

律がすぐ横に座り、
あやめの肩にそっと触れた。

「今日、学校どうでした?
疲れてませんか? マッサージしてあげますよ」

「律やさしい……」

蒼真がわずかに眉を動かす。

「……触りすぎ」

「では蒼真くんも、どうぞ?」

「……しない」

(この二人、静かにケンカしてる……)


夕飯準備を手伝っていると、
陽太があやめの袖を軽く引いた。

「お嬢、これ味見してみ? うまくできたか不安でさ」

「ん、美味しい!」

その瞬間、空気が変わった。

長男・海斗が腕を組み、
静かに陽太を見つめていた。

「……陽太。
素手であやめに味見をさせるのは衛生上良くないです」

「え、別にいーだろ?」

「よくありません。
あなたは距離感が近すぎる。
あやめが困っていると、気づかないのですか」

「いや困ってねぇだろ!? なぁ、あやめ」

「え、えっと……?」

海斗がスッと近づき、
あやめの耳元で低く言う。

「嫌なら、言ってくださいね。
僕は、あなたが誰かに触れられると……あまり良い気はしない」

(海斗の嫉妬、静かだけど深すぎる……!)

陽太と海斗の間に、
ピリッとした空気が走った。


夜、あやめが自室に戻ろうとすると、
五男・優真が廊下で待っていた。

「ねぇ……今日さ」

「うん?」

「みんな……すごかったね」

「たしかに……」

優真は指先であやめの髪をそっと触れた。

「ぼくも本当は……ずっと嫉妬してたよ」

「えっ……」

「でも、あやめちゃんが困ると嫌だから言わなかっただけ」

「……優真」

「ねぇ……ぼくにも、ちゃんと見ててほしい」

その言葉は、他の誰より甘かった。

(どうしよう……
本気でみんな、私のこと好きなんじゃ……?)

どの兄弟も離れがたい。
それが一番困るのは、きっと自分だ。

あやめは胸を押さえて、小さく息をついた。

「……選べないよ、こんなの」

五人の気持ちが重なり始め、
物語はゆっくり恋の中心へ向かって動き始めていた。
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