Naked Love〜涙の跡を舌で辿る時〜
乱されるノイズ

動揺の後の涙

電話の相手は着信音からして、分かっていたけれど…テーブルに座り込んでからディスプレイを覗いて、そこに映された文字を見てから、スマホを手にして私は、若干眉間にシワを寄せつつ溜息を吐く。


ワンコール。
ツーコール…。


ほんと、面倒くさいな。

そんな風に思いながらも、このまま出ないとしつこく掛かってくるのは、安易に想像が付くので、渋々通話ボタンを押した。

「もしも…」

「希子?今どこに居るの?」

被り気味に聞こえてきた声は母の声。
少し高めの声が、今の私にとっては鬱陶しいの一言でしかない。
それは、幼いない頃からあまり変わらない。
きっと、元々の相性が悪いからなのだろう。
なんせ、私は父の連れ子なのだから…。

独り暮らしをすると言った時には、大学卒業後直ぐのことだったからか、あれこれ気に掛けてくれていたんだろうけど。
もうあれから数年経って、私も良い年だ。
何時迄も、こんな風に過干渉されると、此方だってそりゃ辟易するって…。


「…あのねぇ、お母さん、流石にもう家にいるよ。大体今、何時だと思ってんの?私が人混み嫌いなのは知ってるでしょ?で、取り敢えず、もう夕飯も終えてるし」


ついつい面倒くさそうなのを全面に出して話すのに、彼女は全く此方の意思を組まずに、話を進めていく。
思わず、大きな溜息が漏れた。


「そう。だったらいいけど。あんた直ぐに不摂生するから…」

ディスられてんのか、心配してんだか…。
二十歳も過ぎて、いちいちそんな所まで、干渉されたくはないんだけど。
その一言は飲み込んで、適当に流す事にした。


「んー。まぁ、多少はしょうがないよ。これでも一社会人な訳だしさ。今、一番仕事が楽しくなって来た時だから。それに、そろそろ立場的にも後輩育成も力入れないといけないし。主任になるのに色々任されてるからねー」

これは全て本当の事だけれど、なんだか電話越しに私の話を黙って聞いている母に、なんとなく値踏みをされている様で気持ちが悪い。

あ、ペディキュア剥げてら…、

「んもぅ!あんたね?!若い娘がお局さんみたいな事言わないの!」

キーン、と耳の中に響く声は何処までも、自分の声のボリュームも、通常運行なテンションも下げる事はないようだ。

私は、スマホを机の上に置いてスピーカーにするとテーブルに置いた。
こんな、バカデカい声で話され続くのかと思うと、耳と頭がおかしくなりそうだったから。

「えー…?や、それ、全お局様が般若にやるやーつ」

仕方がないから、ツッコミ程度に、反応してやる。

え?
もしかして…。
私が既にお局だって、周りくどく喧嘩売ってんのか?
んなわけあるか。
そんな喧嘩なら思う存分に買ってあげるけど。

と、ちょっと苛々し始めた時。
いきなり真剣な、滅茶苦茶ガチトーンになる母の声。

「バカ言ってないで、希子に伝えたい事があるのよ。お母さん」

「…えぇー?何急に改まって。お母さん、お見合い話とかなら嫌だよ、私。そういうの無理無理」

「そんな事はこの際どうでも良いのよ!そうじゃなくって………」

「え……」


母が教えてくれた内容の後、通話を終えてからの記憶が曖昧だ。


だって、私に何も言わずに遠い異国の地に旅立ってしまった人が、今同じ空気を感じているなんて…。

「なんで、何時も私には何も言ってくれないの?」

その事実だけが、胸にズシンと重くのし掛かり、寂しかった。
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