転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~
24.最後の謎
「だけれど、人は運命を選び取れるの」
「どういうこと?」
「私は望んで陛下に嫁ぎ、あなたたちの母になったわ。それは私が決めたこと」
ボルツが目をしばたたかせる。
そのように思ってはいなかった顔だった。
「陛下、あなたの叔父上にもおられましたよね? 海に行かれた御方が」
「海? だってヘイラルに海はないよね……?」
ボルツが困惑したように尋ねた。
そうだ、ヘイラル帝国は内陸国で湖や大河はあるが海はない。
なのに海に行かれたとは……私も知らない人の話だ。
レインが渋い顔をしながら頷く。
「叔父のひとりが、俺がシャルウッドやボルツくらいの頃に海が好きで好きで、皇宮を飛び出した。たまに手紙をもらうが、南で船長になって暮らしている」
「へ、へぇー……! そんな人が?」
「歴史を紐解けば、そのような決断をした人は少なくないわ。色々な生き方、運命の選び方があるの」
「そうなんだ……」
ボルツの目に力が戻ってくる。
カミルは上手くボルツの好奇心を刺激していた。
「ボルツは何が好き?」
「お馬さんが好き」
「その次は?」
「剣を振り回すこと」
それを聞いたカミルがレインに向き直る。
「あなた、しばらくボルツの好きなことを優先させてあげて」
「……ボルツ、馬と剣が好きか」
「う、うん……駄目?」
「いいや、構わない」
レインは立ち上がった。その顔にはいくらかの安堵があった。
ボルツから本音らしい言葉を引き出せたからだ。
レインがボルツの髪に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫でる。
「どこも痛いところとかはないな?」
「大丈夫……ごめんなさい、こんなことをして」
「いいんだ」
レインはボルツの頭から手を離し、目を閉じた。
どんな想いを抱いているのか、私には想像することしかできない。
でも――多分、自分の子どもの頃を思い浮かべているのではないだろうか。
こうしてボルツを巡る事件は終わりを迎え、私たちは古書保管庫から出ることになった。
はぁー……一件落着だ。
(思ったよりも母上は凄いかもでしゅ……)
カミルは見事にレインの怒りを宥めて、ボルツから本音を探り出した。
そして落ち着けるところに落ち着けたのだ。
「カミル、少し休め」
「いえ、まだ昼前で――」
「いいから。公務は俺がやっておく」
レインの眼差しからは、カミルに対する温かさが強まったように思う。
レインも自分だけではこうはならなかったとわかっているのだ。
(家族の絆も深まったということでいいんでしゅかね?)
雨降って地固まる、そういう結果になったのなら何よりだ。
きゃっきゃっとソーニャの胸元で喜んでおく。
「おや、ラミリア様が上機嫌ですね」
「ぼるー」
にこにこしながら私はボルツに手を伸ばす。
「お、俺? なんだよー……」
ボルツは満更でもなさそうに、私の小さな指にちょんと指を合わせた。
「だぁー、うっー!」
私が喜ぶとボルツも頬を緩めた。
兄が優しい気持ちになると、私の心も温かくなる。
と、古書保管庫の扉に差し掛かったところで――風が廊下から流れてきた。
同時に、ぞくっとするような悪寒が背を駆け巡る。
「あら、もう解決したのですわね?」
栗毛色の髪をたなびかせ、にこやかに現れたのはグレンダだった。
しかしグレンダの本性を知っているのは、私とモナックだけ。
「心配をかけたな。大丈夫だ、ボルツは見つかった」
レインも和やかにグレンダへ対応する。
ただ、なんだろうか――ボルツが一瞬、不安そうな目で周囲を見た気がした。
「ごめんなさいね、グレンダ。あなたのところにも話が行ってしまって」
「……ええ、気にしないで。だってボルツにここに入るよう手助けしたのは、私だから」
「――っ!?」
その場にいた全員が息を呑む。
まさか、そんな……だけど、それなら辻褄が合うことも多い。
扉と窓の封印を解く手助け、それにこの見つかりづらい古書保管庫。
ボルツが考えたにしては、隠れる場所が難解すぎる。
レインが眉を寄せ、グレンダに詰め寄る。
「グレンダ、どういうつもりだ。説明しろ」
「陛下、私はボルツから相談されたのです。色々と」
しれっとグレンダはボルツに矛先を向けた。
ボルツは居心地悪そうにしている。
どうやらグレンダの嘘ではなさそうだった。
「それで……消えてしまいたいと言われ、手助けを」
「皇宮の人間を巻き込んでか」
レインはこれまでになく、グレンダへ怒っているようだった。
カミルは……何も言わないが、信じられないという目をしている。
「数時間も隠れれば、ボルツも気が済むかと思ったのですわ。その前に見つかってしまったようですけれど……」
グレンダの言い分は、あくまでボルツの計画の手助けをしただけというものだ。
にしては手が込みすぎている。
目的もわからない。というより、グレンダはなぜボルツのそんな考えに乗ったのだろうか。
露見すればレインたちからの不評を買うのはわかりきっているのに。
「……一言、相談が欲しかったわ」
「カミル姉様のお言葉はもっともです。でも、私は……今回はボルツの思う通りのほうが絶対に良いと考えましたわ」
「どういうことだ?」
訝しむレインに臆さずグレンダが答える。
さらさらと事前に考えていたとしか思えないほど、流暢に。
「どんな暴れ川もいずれひとつになる。一度、皆々が本音を言ったほうがいいのではないかと」
「…………」
それはまさに、今の私の家族の状況だった。
ここまでの事件が起きたからこそ、全員が本音を言い合えたのだ。
だけど、それはグレンダの意図した通りだったのか――?
『なーんか嘘っぽいのにゃー』
『……モナック』
ボルツが手を少し震わせながら、レインの服の裾を掴んだ。
「父上、グレンダは僕を助けたくれただけです。間違いありません」
「そうか……」
レインが目を伏せる。
それが本当ならグレンダはやり過ぎだが、罪に問うのも難しい。
「グレンダ、お前の言い分はわかった。今回は特別に不問に処す」
「ありがとうございます。以後、このようなことはなきようにいたしますわ」
「……当然だ」
グレンダの視線が私を捉えて、微笑んだ。
暗く、不気味な――勝ち気な目線だ。
(家族の絆は深まったでしゅけれど……)
グレンダがそこまでボルツに肩入れするのは、なぜだろうか。
私が思うに、グレンダは裏表があって計算高い人間だ。
しかも密輸の件にも絡んでいる、皇族の癌とも呼べる存在。
それがどうして、ボルツの計画に乗ったのか。そこがどうしてもわからなかった。
色々なことがあった一日が終わり、私はお疲れモードだった。
モナックも同じようで、ソファーでごろんとしている。
謎は残っているけれど、とりあえずはまた平穏な日々が来る……はずだ。
「どういうこと?」
「私は望んで陛下に嫁ぎ、あなたたちの母になったわ。それは私が決めたこと」
ボルツが目をしばたたかせる。
そのように思ってはいなかった顔だった。
「陛下、あなたの叔父上にもおられましたよね? 海に行かれた御方が」
「海? だってヘイラルに海はないよね……?」
ボルツが困惑したように尋ねた。
そうだ、ヘイラル帝国は内陸国で湖や大河はあるが海はない。
なのに海に行かれたとは……私も知らない人の話だ。
レインが渋い顔をしながら頷く。
「叔父のひとりが、俺がシャルウッドやボルツくらいの頃に海が好きで好きで、皇宮を飛び出した。たまに手紙をもらうが、南で船長になって暮らしている」
「へ、へぇー……! そんな人が?」
「歴史を紐解けば、そのような決断をした人は少なくないわ。色々な生き方、運命の選び方があるの」
「そうなんだ……」
ボルツの目に力が戻ってくる。
カミルは上手くボルツの好奇心を刺激していた。
「ボルツは何が好き?」
「お馬さんが好き」
「その次は?」
「剣を振り回すこと」
それを聞いたカミルがレインに向き直る。
「あなた、しばらくボルツの好きなことを優先させてあげて」
「……ボルツ、馬と剣が好きか」
「う、うん……駄目?」
「いいや、構わない」
レインは立ち上がった。その顔にはいくらかの安堵があった。
ボルツから本音らしい言葉を引き出せたからだ。
レインがボルツの髪に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫でる。
「どこも痛いところとかはないな?」
「大丈夫……ごめんなさい、こんなことをして」
「いいんだ」
レインはボルツの頭から手を離し、目を閉じた。
どんな想いを抱いているのか、私には想像することしかできない。
でも――多分、自分の子どもの頃を思い浮かべているのではないだろうか。
こうしてボルツを巡る事件は終わりを迎え、私たちは古書保管庫から出ることになった。
はぁー……一件落着だ。
(思ったよりも母上は凄いかもでしゅ……)
カミルは見事にレインの怒りを宥めて、ボルツから本音を探り出した。
そして落ち着けるところに落ち着けたのだ。
「カミル、少し休め」
「いえ、まだ昼前で――」
「いいから。公務は俺がやっておく」
レインの眼差しからは、カミルに対する温かさが強まったように思う。
レインも自分だけではこうはならなかったとわかっているのだ。
(家族の絆も深まったということでいいんでしゅかね?)
雨降って地固まる、そういう結果になったのなら何よりだ。
きゃっきゃっとソーニャの胸元で喜んでおく。
「おや、ラミリア様が上機嫌ですね」
「ぼるー」
にこにこしながら私はボルツに手を伸ばす。
「お、俺? なんだよー……」
ボルツは満更でもなさそうに、私の小さな指にちょんと指を合わせた。
「だぁー、うっー!」
私が喜ぶとボルツも頬を緩めた。
兄が優しい気持ちになると、私の心も温かくなる。
と、古書保管庫の扉に差し掛かったところで――風が廊下から流れてきた。
同時に、ぞくっとするような悪寒が背を駆け巡る。
「あら、もう解決したのですわね?」
栗毛色の髪をたなびかせ、にこやかに現れたのはグレンダだった。
しかしグレンダの本性を知っているのは、私とモナックだけ。
「心配をかけたな。大丈夫だ、ボルツは見つかった」
レインも和やかにグレンダへ対応する。
ただ、なんだろうか――ボルツが一瞬、不安そうな目で周囲を見た気がした。
「ごめんなさいね、グレンダ。あなたのところにも話が行ってしまって」
「……ええ、気にしないで。だってボルツにここに入るよう手助けしたのは、私だから」
「――っ!?」
その場にいた全員が息を呑む。
まさか、そんな……だけど、それなら辻褄が合うことも多い。
扉と窓の封印を解く手助け、それにこの見つかりづらい古書保管庫。
ボルツが考えたにしては、隠れる場所が難解すぎる。
レインが眉を寄せ、グレンダに詰め寄る。
「グレンダ、どういうつもりだ。説明しろ」
「陛下、私はボルツから相談されたのです。色々と」
しれっとグレンダはボルツに矛先を向けた。
ボルツは居心地悪そうにしている。
どうやらグレンダの嘘ではなさそうだった。
「それで……消えてしまいたいと言われ、手助けを」
「皇宮の人間を巻き込んでか」
レインはこれまでになく、グレンダへ怒っているようだった。
カミルは……何も言わないが、信じられないという目をしている。
「数時間も隠れれば、ボルツも気が済むかと思ったのですわ。その前に見つかってしまったようですけれど……」
グレンダの言い分は、あくまでボルツの計画の手助けをしただけというものだ。
にしては手が込みすぎている。
目的もわからない。というより、グレンダはなぜボルツのそんな考えに乗ったのだろうか。
露見すればレインたちからの不評を買うのはわかりきっているのに。
「……一言、相談が欲しかったわ」
「カミル姉様のお言葉はもっともです。でも、私は……今回はボルツの思う通りのほうが絶対に良いと考えましたわ」
「どういうことだ?」
訝しむレインに臆さずグレンダが答える。
さらさらと事前に考えていたとしか思えないほど、流暢に。
「どんな暴れ川もいずれひとつになる。一度、皆々が本音を言ったほうがいいのではないかと」
「…………」
それはまさに、今の私の家族の状況だった。
ここまでの事件が起きたからこそ、全員が本音を言い合えたのだ。
だけど、それはグレンダの意図した通りだったのか――?
『なーんか嘘っぽいのにゃー』
『……モナック』
ボルツが手を少し震わせながら、レインの服の裾を掴んだ。
「父上、グレンダは僕を助けたくれただけです。間違いありません」
「そうか……」
レインが目を伏せる。
それが本当ならグレンダはやり過ぎだが、罪に問うのも難しい。
「グレンダ、お前の言い分はわかった。今回は特別に不問に処す」
「ありがとうございます。以後、このようなことはなきようにいたしますわ」
「……当然だ」
グレンダの視線が私を捉えて、微笑んだ。
暗く、不気味な――勝ち気な目線だ。
(家族の絆は深まったでしゅけれど……)
グレンダがそこまでボルツに肩入れするのは、なぜだろうか。
私が思うに、グレンダは裏表があって計算高い人間だ。
しかも密輸の件にも絡んでいる、皇族の癌とも呼べる存在。
それがどうして、ボルツの計画に乗ったのか。そこがどうしてもわからなかった。
色々なことがあった一日が終わり、私はお疲れモードだった。
モナックも同じようで、ソファーでごろんとしている。
謎は残っているけれど、とりあえずはまた平穏な日々が来る……はずだ。