転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~
23.母の言葉
私はソーニャに抱っこされ、古書保管庫の前に到着した。
父であるレイン、それに父の後ろに怖い顔をした大勢の大人たちがいる。
レインの後ろの人たちは、秘書や文官といった高級官僚だ。
その誰もが厳しい表情を浮かべている。
いつもは優しげなシャルウッドでさえ、今の状況に困惑しているようだった。
普段通りなのはカミルの胸元にいるモナックくらいか。
「だぁー……」
私は緊張してませんよという和やかな声を出す。
しかし、実際にはかなりドキドキしていた。
ここにボルツがいない可能性もある上、大人たちの雰囲気がとてつもなくピリピリしている。
正直言って、ここにボルツがいて――どのようなことになるのだろうか。
もしかして、厳罰が下されたり?
そこまで考えてなかったので、私は内心慌ててしまった。
その間にレインが扉の魔法を解除して鍵を開け、ドアノブに手をかける。
「お待ちになって」
カミルがレインの手の上に自分の手を添えて、扉を開けるのを制止した。
「なんのつもりだ」
「ボルツがこの中にいるとして、何と声をかけるのですか」
「…………」
レインの瞳が鋭く光る。
父とはいえ、ひゅっと息が苦しくなるような圧迫感だ。
「この騒動がもしボルツの計画したものなら、叱責しなければならん。これだけの人間を巻き込んだのだ。子どもの悪戯では済まされない」
それはレインの明確な意思表示だった。
しかし氷のような父の視線にあっても、カミルは手をどけなかった。
「ボルツは――ボルツにも考えがあるのだと思います」
「どんな考えがあるという?」
「シャルウッドが元気になってから、ボルツはぼんやりすることが増えました。あなたもお気付きでしたよね?」
「……無論」
「今回の視察もあなたはシャルウッドだけを連れて、ボルツは連れていきませんでした」
「隣州フォークウッドは学術都市だ。ボルツよりもシャルウッドのほうが適任と思ったまで」
レインの言葉は正論だ。ボルツの部屋には本が少なかった。
座学も好きではなかったみたいだし……。
「後継にお悩みだったのは承知しております。もちろん軽々しく論ずることはできないことも。しかし、ボルツの想いも汲み取ってあげてください」
カミルにはこれまでにない切実さがあった。
私が高熱を出した時と同じか、それ以上に。
カミルの情の深さに触れて、心が動かない人間がいるだろうか。
レインの後ろに控える人たちは身じろぎしていた。
「いずれにせよ、ボルツを見つけてからだ」
「……はい」
カミルが手をどけて、レインが扉を開ける。
古書保管庫から埃っぽい空気が流れ出してきた。
室内は暗く、中はほとんど見えない。
だが、レインが手をかざすと部屋の天井に照明が灯った。
それでも部屋は明るい、とまではいかず薄暗い。見えづらい……。
ソーニャが耳元でこそっと教えてくれる。
「本の保存のために明かりが弱いのです」
「はう……」
レインを先頭にして、私たちは古書保管庫に入っていく。
「ボルツ! いるのか!」
おっかないレインの声が飛ぶ。
カミルもシャルウッドも部屋の奥を見つめながら声を上げていた。
「いたら返事をして、ボルツ!」
「ボルツー!」
部屋は本棚に埋め尽くされていると言ってもいい。
さらには外から見たよりも広い。
なのでひとつひとつ、本棚の隙間を見て歩かなければならないのだが……。
とある本棚に差し掛かった時、カミルの胸元にいるモナックがにゃーにゃー鳴きながら、窓のほうを差す。
「もしかして……っ!」
カミルたちがその本棚の奥に進む。
そこには足を抱きながら床にうずくまるボルツがいた。
「ボルツ!」
レインに呼びかけられ、ボルツが顔を上げる。
とりあえずは彼を発見できた。見る限り、無事そうではある。
全員でボルツに駆け寄り、彼の様子を確認する。
「ああ、見つかって良かった……」
「無事なんだな?」
レインとカミルが屈んで、ボルツに声をかけた。
「……うん」
「なぜこんなところにいるんだ」
「………っ」
ボルツはぎゅっと服を掴み、顔を伏せて答えない。
シャルウッドは心配そうに弟を見やっていた。
「ボルツ……」
「答えろ、ボルツ」
「…………」
レインの苛立ち混じりの言葉に場が張り詰める。
ボルツもそれがわからないわけではないはず……。
「ここに来たのは、自分の意志か」
段々とレインの怒りが募ってきている。
「黙っていたら、何もわからん。自分が何をしたか――理解しているのか」
「…………」
なおもボルツは答えない。
私は前世を含めれば、レインやカミルよりもずっと年上だ。
それに世界をまたいで子どもの心理もより良く理解している、と思う。
このような問い方ではボルツの本音を聞き出すことは多分、できない。
「……皆に嫌われようとしたの?」
カミルの言葉にボルツがぴくりと反応する。
「どういうことだ。なぜ、そんなことを」
「あなた、ここは私に任せて」
カミルが語気を強めた。今までにないくらい、強く。
「ボルツ――あなたは嫌われようと今回のことをしたのかもしれないけれど、私はあなたを嫌いにならないわ。シャルウッドもね」
「そうだよ、ボルツ」
シャルウッドは声を震わせながら、屈んでボルツの肩を掴んだ。
「こんな悪戯で嫌いになんか、ならないからね」
「……なんで」
ボルツはゆっくりと顔を上げた。
「そのほうが兄上にとって、いいんじゃないの?」
「馬鹿! そんな訳ないよ!」
「だって、俺が嫌われれば……」
「僕が皇帝に? そんなの、ずっと先の話じゃないか!」
「でも……」
ボルツの言葉は途切れ途切れで、小さい。
迷える彼の心がそのまま口から出ているみたいだった。
「ボルツ、お前は……」
レインがそこで口を閉じる。
かつてないボルツの様子と言葉に、レインも衝撃を受けているようだった。
「人はひとりでは生きられないわ。誰もが運命を背負っている……」
「うん……」
「あなたは皇帝の子として生まれた。それはとても強い運命ね。私も今は皇妃だけれど、想像もできない」
カミルの声は優しく、包み込むような響きに満ちていた。
ずっと聞いていたくなるような……。
「だけれど、人は運命を選び取れるの」
父であるレイン、それに父の後ろに怖い顔をした大勢の大人たちがいる。
レインの後ろの人たちは、秘書や文官といった高級官僚だ。
その誰もが厳しい表情を浮かべている。
いつもは優しげなシャルウッドでさえ、今の状況に困惑しているようだった。
普段通りなのはカミルの胸元にいるモナックくらいか。
「だぁー……」
私は緊張してませんよという和やかな声を出す。
しかし、実際にはかなりドキドキしていた。
ここにボルツがいない可能性もある上、大人たちの雰囲気がとてつもなくピリピリしている。
正直言って、ここにボルツがいて――どのようなことになるのだろうか。
もしかして、厳罰が下されたり?
そこまで考えてなかったので、私は内心慌ててしまった。
その間にレインが扉の魔法を解除して鍵を開け、ドアノブに手をかける。
「お待ちになって」
カミルがレインの手の上に自分の手を添えて、扉を開けるのを制止した。
「なんのつもりだ」
「ボルツがこの中にいるとして、何と声をかけるのですか」
「…………」
レインの瞳が鋭く光る。
父とはいえ、ひゅっと息が苦しくなるような圧迫感だ。
「この騒動がもしボルツの計画したものなら、叱責しなければならん。これだけの人間を巻き込んだのだ。子どもの悪戯では済まされない」
それはレインの明確な意思表示だった。
しかし氷のような父の視線にあっても、カミルは手をどけなかった。
「ボルツは――ボルツにも考えがあるのだと思います」
「どんな考えがあるという?」
「シャルウッドが元気になってから、ボルツはぼんやりすることが増えました。あなたもお気付きでしたよね?」
「……無論」
「今回の視察もあなたはシャルウッドだけを連れて、ボルツは連れていきませんでした」
「隣州フォークウッドは学術都市だ。ボルツよりもシャルウッドのほうが適任と思ったまで」
レインの言葉は正論だ。ボルツの部屋には本が少なかった。
座学も好きではなかったみたいだし……。
「後継にお悩みだったのは承知しております。もちろん軽々しく論ずることはできないことも。しかし、ボルツの想いも汲み取ってあげてください」
カミルにはこれまでにない切実さがあった。
私が高熱を出した時と同じか、それ以上に。
カミルの情の深さに触れて、心が動かない人間がいるだろうか。
レインの後ろに控える人たちは身じろぎしていた。
「いずれにせよ、ボルツを見つけてからだ」
「……はい」
カミルが手をどけて、レインが扉を開ける。
古書保管庫から埃っぽい空気が流れ出してきた。
室内は暗く、中はほとんど見えない。
だが、レインが手をかざすと部屋の天井に照明が灯った。
それでも部屋は明るい、とまではいかず薄暗い。見えづらい……。
ソーニャが耳元でこそっと教えてくれる。
「本の保存のために明かりが弱いのです」
「はう……」
レインを先頭にして、私たちは古書保管庫に入っていく。
「ボルツ! いるのか!」
おっかないレインの声が飛ぶ。
カミルもシャルウッドも部屋の奥を見つめながら声を上げていた。
「いたら返事をして、ボルツ!」
「ボルツー!」
部屋は本棚に埋め尽くされていると言ってもいい。
さらには外から見たよりも広い。
なのでひとつひとつ、本棚の隙間を見て歩かなければならないのだが……。
とある本棚に差し掛かった時、カミルの胸元にいるモナックがにゃーにゃー鳴きながら、窓のほうを差す。
「もしかして……っ!」
カミルたちがその本棚の奥に進む。
そこには足を抱きながら床にうずくまるボルツがいた。
「ボルツ!」
レインに呼びかけられ、ボルツが顔を上げる。
とりあえずは彼を発見できた。見る限り、無事そうではある。
全員でボルツに駆け寄り、彼の様子を確認する。
「ああ、見つかって良かった……」
「無事なんだな?」
レインとカミルが屈んで、ボルツに声をかけた。
「……うん」
「なぜこんなところにいるんだ」
「………っ」
ボルツはぎゅっと服を掴み、顔を伏せて答えない。
シャルウッドは心配そうに弟を見やっていた。
「ボルツ……」
「答えろ、ボルツ」
「…………」
レインの苛立ち混じりの言葉に場が張り詰める。
ボルツもそれがわからないわけではないはず……。
「ここに来たのは、自分の意志か」
段々とレインの怒りが募ってきている。
「黙っていたら、何もわからん。自分が何をしたか――理解しているのか」
「…………」
なおもボルツは答えない。
私は前世を含めれば、レインやカミルよりもずっと年上だ。
それに世界をまたいで子どもの心理もより良く理解している、と思う。
このような問い方ではボルツの本音を聞き出すことは多分、できない。
「……皆に嫌われようとしたの?」
カミルの言葉にボルツがぴくりと反応する。
「どういうことだ。なぜ、そんなことを」
「あなた、ここは私に任せて」
カミルが語気を強めた。今までにないくらい、強く。
「ボルツ――あなたは嫌われようと今回のことをしたのかもしれないけれど、私はあなたを嫌いにならないわ。シャルウッドもね」
「そうだよ、ボルツ」
シャルウッドは声を震わせながら、屈んでボルツの肩を掴んだ。
「こんな悪戯で嫌いになんか、ならないからね」
「……なんで」
ボルツはゆっくりと顔を上げた。
「そのほうが兄上にとって、いいんじゃないの?」
「馬鹿! そんな訳ないよ!」
「だって、俺が嫌われれば……」
「僕が皇帝に? そんなの、ずっと先の話じゃないか!」
「でも……」
ボルツの言葉は途切れ途切れで、小さい。
迷える彼の心がそのまま口から出ているみたいだった。
「ボルツ、お前は……」
レインがそこで口を閉じる。
かつてないボルツの様子と言葉に、レインも衝撃を受けているようだった。
「人はひとりでは生きられないわ。誰もが運命を背負っている……」
「うん……」
「あなたは皇帝の子として生まれた。それはとても強い運命ね。私も今は皇妃だけれど、想像もできない」
カミルの声は優しく、包み込むような響きに満ちていた。
ずっと聞いていたくなるような……。
「だけれど、人は運命を選び取れるの」