転生した赤ちゃん皇女さまは家族のために暗躍します~冷酷皇帝一家の天才幼女がどんな事件も解決でしゅ!~

29.決着

 それから少しして、階下が本当に騒がしくなり、どたどたと大勢が階段を昇ってくる音が聞こえた。

 私はなおも全力で泣いていた。
 嘘泣きとはいえ、こんなに泣きまくるなんて生まれて初めてだ。

 いや、もしかしたら前世でも赤ちゃんの頃はこうだったかもだけど……。
 ついに騒ぎは扉の前までやってきた。扉の前でカミルの怒声が響く。

「開けなさい!」

 演技だというのに、とんでもない迫力だった。
 そう、カミルは知っている。私がここにいることを。

 全ては自作自演、一芝居打ってやっているのだ。

「ま、待て! この先は――」

 アルバートは困り果てながらもカミルを押し止めている。
 無駄なことを。私がここで泣きまくっていて、踏み込まない訳はないだろうに。

 もう少しだ。もう少し泣きわめけば……!

「わぁん! だぁっ、ふあーん!!」

「これはラミリアの泣き声でしょう! 何をしているの、アルバートを拘束して扉を早く開けなさい!」

「やめろ! 俺に触るなぁっ!」

 情けない声を上げるアルバート。
 まもなく扉の前が一行がばーんと部屋に踏み込んできた。

 それでモナックも私のしたかったことがわかったようだ。

『はぁん、なるほどにゃー』

「ラミリア! ああ、ラミリア!」

 カミルは大焦りをしながら私に近寄り、抱き上げる。
 腕を後ろに回されたアルバートが部屋に突き出された。

 そのそばにはシャルウッドとボルツも。
 ボルツは部屋の状況を見渡し、大声を上げた。

「叔父上、これはどういうことですか!?」

「知らん! 本当に知らん!!」

 カミルの胸の中であやされ、私は徐々に泣き声を小さくしていく。
 ふっふふ……完璧だ。

 アルバートは大慌てで私が館にいたことを否定する。
 まぁ、そうするしかないだろうが。

「ラミリアとモナックがここにいるのはどういう訳ですか!」

「わ、わからん! 俺は何も――!」

「それにこの袋は……この匂いはコーヒー豆じゃないの。コーヒーは政府指定の箱で管理するはず。なぜこんなにもここにコーヒーの袋が!?」

「うぅ、本当に知らないんだ!」

 場がとんでもないことになっている中、シャルウッドがカーテンとその下に目を向ける。

 護衛が倒れているのと、ガラスの破片がカーテンの下にあるのを見つけたようだった。
 だけど知らんぷり。シャルウッドがモナックを抱き上げる。

「これは大変なことですよ。叔父上の部屋でラミリアとモナックが見つかったのですから」

「……ううっ」

「しかもコーヒーは管理物資です。叔父上とて、好き勝手に私的利用しては罪を免れません」

「待て……俺は本当に……っ!」

「弁明はしかるべき場でお聞きします! 連行しなさい!」

 カミルが私を抱きながら恐るべき剣幕でまくし立てる。

 証拠品は全て揃っていた。密輸の品と私とモナック。
 そのうち、密輸の品と私自身はこちらで揃えてあげたものだけど。

『この場合はどんな罪になるにゃ?』

『皇女誘拐、密輸……でしゅかね』

『それってどのくらいの重さの罪なのにゃ?』

 うーんと少し考えて、私は答えを出した。

『再起不能レベルの重罪でしゅ!』



 こうしてアルバートは拘束され、それと同時にグレンダも拘束された。
 グレンダを拘束したのはレインだ。

 合流した私たちは、衛兵に連れられたグレンダとも顔を合わせる。

「カミル姉様……! これは……っ」

「あなたに姉と呼ばれる筋合いはもうないわ」

 カミルは冷徹に言い放った。
 おおー、凄い迫力……一言で場の雰囲気が凍った。

 私とモナックは今、お馴染みのベビーカーに乗せられているのだけれど、まさに修羅場だった。

「あなたの館からラミリア、モナックのみならずコーヒー豆まで。地下のも全て見つけたわ」

『地下にも隠してたのにゃ?』

『そうみたいでしゅ。モナックを捕まえて、早速仕入れたんでしゅかね』

 アルバートはうなだれたまま、何も言葉を発しない。
 やり手ではあるのだろうが、動きが早すぎたのだ。

「これまでに密輸で押収されたコーヒー豆と同一種、同等品……それがグレンダ、あなたの館から大量に見つかったのよ」

「し、知らないわ! 私は何も知らない!」

 グレンダはわめきながら父を睨んだ。

「私の父に聞いて! 私は無実よ!」

「グレンダ……!」

 アルバートはまだ頭の中が整理できていないらしい。
 しかし彼はグレンダほどにはもう取り乱していない。

「……陛下、私は……」

「アルバート、お前は皇族の中では娘とともに俺を支えてくれているものだと思っていた」

 怒りを静かに燃やしながらレインがアルバートを見据える。

「だが、そうではなかったようだな。カミルが計画を打ち明けて俺に協力を求めた時、半ば信じられない気持ちだった――」

 レインは最初、グレンダを誘い出すというカミルの計画に半信半疑だったらしい。
 そこまでやって何も出なかったらアルバート、グレンダとの仲が壊れてしまう。

 それは少なくなったヘイラル皇室では大きな痛手になりかねない。
 だが、レインはカミルを信じることにしたのだ。

 それは今までカミルと私とモナックが繋いできた絆のおかげだった。

「一体、何が望みだった……? 何不自由ない生活を送れていたはずだ。これからも安泰だったはずなのに」

 レインは帝国のためにずっと身を粉にして働いていた。

 私が高熱を出した時でも、公務を優先するほどに。
 全部、皆が安寧に暮らすため。だからそれをぶち壊そうとしたグレンダとアルバートを理解できないのだ。私も正直、ふたりの気持ちは理解できない。

 小市民な前世の私には、こんなに強欲な生き方は到底送れそうになかった。
 グレンダが憐れみをレインに乞い願う。

「陛下、私は――全て、陛下のためにこれをしたのですわ」

「俺のため?」

「カミル姉様と陛下は、結局のところ政略結婚なのでしょう? そこに愛はなかったはず。そんな重荷は陛下のためにならない、私はそう考えたのですわ」

「……重荷か」

 レインはグレンダの言葉を繰り返し、沈黙した。

「政略結婚だったのは否定しない。しかし重荷だったことはない。今も昔も」
「あなた――」

 カミルが厳しい目線を少しだけ和らげた。

「紛れもなくカミルとラミリアも俺の家族だ。勝手に俺を判断するな。グレンダ、お前の増長は目に余る」

「そんな、陛下!」

「地下牢に連れて行け!」

 レインの下した命令に、衛兵がグレンダの身体を押さえながら連れて行こうとする。
 そこでグレンダの瞳が危険な色を帯びて、魔力が一気に炸裂した。

「カミル! お前さえいなければーーっ!!」

 それは間違いなく、何の計算もないやけっぱちの行動だった。

 魔力と感情を爆発させたグレンダがカミルへと飛び掛かる。
 身体強化を発動させたグレンダの動きは目にも留まらないほど。

 予想外の行動に誰も動けない。

『大丈夫にゃん』

『えっ――?』

 グレンダが両手を突き出してカミルへ突撃して。危ない、と思った瞬間。

「はあっ……!」

 その両腕をカミルは掴み、腰を捻った。

 強化された私の視力で何とか捉えられるほどのカミルの早業だ。
 そのままグレンダの勢いを利用して、カミルは彼女を回転させて、床に叩き付ける。

「ぶはっ!」

「忘れたの? 私は……そこそこ強いのよ」

「あぐっ、ちくしょう……っ!」

 なんとも見事な護身術だった。
 不意を突いて強化したグレンダを、ものともせず一蹴してしまった。

 というより、これって私より強いのでは?
 今、周囲は動けなかったのではなく、動かなかったのか。

 これなら余計な手出しをしたほうが危なかったかも……。
 腕を突き出したグレンダの手首を捻り、カミルが吐き捨てる。

「また罪がひとつ増えたわね」



 グレンダとアルバートは皇籍を剥奪、全財産も没収されて帝国の辺境に幽閉されることになった。
 まぁ、妥当なところではないか。

 こうして平和な、原作の世界とは違う未来がやってくることになったのだ。

「ばぶぅ……」

 季節は冬に差し掛かるが、今日の日差しはことさらに暖かかった。

 中庭でのお茶会への参加なのだけれど、もちろん私に飲めるものは何もない……なので、ベビーカーの中で私は日差しを浴びながら、うつらうつらしていた。

「にゃーん」

 モナックは今ではベビーカーの中、私の隣でごろんとしていた。
 もふもふと冬では最高の毛並みだ。

 ただ、ベビーカーの中にふたりいるのはそこそこ狭いが……。
 この冬の間に、新しいベビーカーを作ってくれるらしいので、それが楽しみだ。

 もうあと一年か二年は多分、人前ではベビーカーだし。

「ラミリアはどうだ? あれから特に変わりないか」

「ええ、陛下――大丈夫ですわ。気にもしていないようで」

 中庭のテラスでカミルとレインは隣り合いながら、仲良さそうにベビーカーを見ている。
 むしろあまりに隣り合う距離が近いような。肘と肘が当たりそうだ。

 日本人の私からすると、親のそーいうところは少し恥ずかしいような……でもヘイラルだと普通なのだろうか。

「シャルウッドも体格が良くなってきましたね」

「うむ……今ではボルツと追いかけっこをしているくらいだ」

 中庭の向こう、池の橋辺りでシャルウッドとボルツが追いかけっこをしている。
 逃げるのはシャルウッドで、追うのはボルツ。ちょっと前なら、絶対になかった光景だ。

「兄上、待てー!」

「あはは、まだまだ……!」

 ボルツもシャルウッドも笑顔で楽しそうに追いかけっこを楽しんでいる。

「今まで身体を使う遊びはさせてこなかったが……今後は増やしていけそうだな。触れ合いが増えるのは、ふたりにも良いだろう」

「ええ、ああしていれば心が離れることもありませんわ」

 もしかするとボルツはシャルウッドと区別され、寂しかったのかもしれない。

 しかし、今はシャルウッドとボルツは同じ目線で同じ遊びができる。
 きっとこのままなら、ふたりが皇位を争うこともないだろう――ボルツははっきりとやりたくないと言ったわけだし。

「……ところでやはり不思議なんだが」

「何がでしょうか?」

「あの日、アルバートの館にラミリアが誘拐されたが、あの部屋で気絶したという人間……」

 そこでじっとレインからの視線を感じる。

「ずっと妙なことを言っているそうだ。無貌の賢者に打ちのめされたと。どんな尋問でもそれだけは覆さないらしいが……」

 ぎくり。
 私がモナックの囚われている部屋に侵入した時、変装したままアッパーカットした人か。

「シャルウッドも少し前、妙な物を欲しがっていた――無貌の賢者の小さな木像だ」

「まぁ、無貌の賢者が……まさか、今もいると?」

「そこまでは言っていない。所詮は賊の言うことだしな。だが、奇妙な話もあるものだ」

「ただの偶然でございますわ。それに無貌の賢者は善でしょう?」

「うむ……謎ではあるが善なる存在だ。知識と魔力をもって、人を助けるという。もし本当に無貌の賢者に助けられたのなら、ラミリアには彼の存在の加護があるのかもな」

 カミルが横目で私に視線を送る。
 私自身のことについては、まだ知っている人は少ない。

 モナック、ソーニャ、そしてカミルだけ。
 実は秘密をもっと広く家族には打ち明けようかと迷ったこともあるのだが、当分は知る人が増えなくてもいいのだろう。カミルが蠱惑的に微笑む。

「きっとラミリアには計り知れないものがあるのですわ」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
これにて第1部完結となります!

また、本作に2万字の大幅加筆修正を加えた書籍版が1/5より発売されます……!!
楽しいと思ってもらえました方は、ぜひともお買い上げ頂ければ幸いですーー!!
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