「おまけ令嬢」アイリス・クロフォードは、人生をやり直す
十章 婚約破棄大作戦
その日の夕食は、ルクスと二人、私の部屋で食べることになった。
私とドミニクが円満に婚約破棄できるよう、計画を立てるためだ。
名付けて、『婚約破棄大作戦』。
これは、私とルクス、二人の秘密の計画だ。
食事を運んで来たマリーがテーブルの上に料理を並べていくと、ルクスがパンにスライスしたチーズを載せてかぶりつく。
(ルクスってば、本当に健康になって……)
その姿に、何だかホロリとしてしまう。
「アイリスも食べて。腹が減っては何とやらさ」
「戦はできぬでしょ。それにしても、私はわからないのよ。私もドミニクも、互いにこの婚約を望んでいない。ドミニクには好きな令嬢がいて、その令嬢もドミニクを好いている。私はドミニクの両親に嫌わているし、お父様はカスティル家に私を押し付けただけ。結局、この婚約は誰の望みでもないの。それなのに、婚約破棄はできない。何で? どうして? 結局そこに辿りつく」
「それが貴族の婚約さ。色んなしがらみにがんじがらめになっていて、簡単に破棄することなんてできない。それに、ただ婚約破棄するだけではダメなんだ。この婚約破棄で重要なのは、クロフォード家が損をしないこと。そしてアイリス、君の名誉に傷が付かないことだ。さあ、整理していこう」
ルクスはノートを破って、この婚約に関係している人物の名前を書いていった。
カスティル公爵、公爵夫人、ドミニク、クロフォード伯爵、私、そしてセーラだ。
「一番の問題は、カスティル公爵が金にがめついということだ。言い方は悪いけど、君とドミニクの婚約を担保にして、クロフォード家はカスティル家の借金を肩代わりしているんだ。婚約破棄になれば、その時点で借金を肩代わりする理由はなくなる。カスティル家は、クロフォード家に支払わせた借金を返さなくてはならなくなるんだ。さっきも話した通り、カスティル公爵は金にがめつい。それだけは絶対に避けたいはずだ」
それから、私の名前をまるで囲む。
「カスティル公爵が唯一受け入れるのは、アイリスが有責の場合の婚約破棄だ。借金の肩代わりはそのままに、婚約破棄の慰謝料まで請求できる。カスティル公爵のことだ。婚約破棄の理由が何であれ、難癖をつけて莫大な慰謝料を搾り取ろうとするだろう。クロフォード家にとっては大きな痛手だ」
そう、前世がまさにそうだった。
字が読めなかった私が王立学園を退学になると、カスティル家はそれを理由に婚約破棄を言い渡し、莫大な慰謝料を請求した。
慰謝料を支払うため、父は領地の税金を上げざるを得なかった。そのせいで、多くの民が路頭に迷うことになったのだ。
ルクスは話を続けた。
「クロフォード家が損をせず、かつカスティル公爵が大人しく婚約破棄を受け入れる方法はひとつしかない。この婚約において、ドミニクが有責だと証明することだ」
ドミニクの名前を、ペン先で数回叩くルクス。
「君と婚約してから、ドミニクは月に一度、必ずクロフォード邸を訪ねてきた。君と茶会の席を設け、婚約者としての義務を果たすために。あいつは抜かりないよ。それをわかった上で、一度たりとも茶会を欠席しなかったんだから。だけど今日、僕はこの作戦の鍵となる人物が誰かわかったんだ」
「もしかして、セーラ・アングラードのこと?」
「ああ。ドミニクとセーラの不貞の証拠があれば、ドミニクの有責で婚約破棄ができる。例えば手紙。ドミニクがセーラに宛てた手紙でもあれば、立派な証拠になるんだけどね。もしなければ……。そうだな。密室に二人きりでいるところを、大勢に目撃させるっていう手もある。結婚前の、婚約者ではない男女が密室で二人きりでいる。しかも他に婚約者のいる身でだ。不貞を疑われても文句は言えないだろう。目撃者も一人や二人ではダメだ。大勢の目撃者がいれば、立派な不貞の証拠になるだろうね」
「なるほどね」
「だけど、それは最終手段だ。まずは二人が手紙のやりとりをしていたかどうか、それを探ってみよう。アイリス、セーラに近づいて聞き出すことはできそう?」
「うん、やるわ! そうなると、今日セーラ・アングラードに敵意を向けなかったのは正解だったというわけね」
「何だか変な女だったけど、今は彼女が唯一の希望だからね」
「だけど……。借金を返すことになったら、カスティル家は大丈夫なのかしら?」
私の質問に、呆れた顔をしながら椅子からずり落ちそうになるルクス。
「アイリス、君はバカなの? カスティル公爵は、本来自分たちが背負うべき借金をクロフォード家に押し付けたんだ。婚約によって、公爵家と姻戚になれるという餌をチラつかせてね。同情する必要なんかこれっぽっちもないんだよ。それに、カスティル公爵が、社交界でクロフォード家のことを何て触れ回っているか知ってる? 父さんが借金について口を噤んでいるのをいいことに、公爵家のお溢れを狙うハイエナのような家門だと言いふらしているんだから。アイリス、君はカスティル家のことなんて気にしなくていいんだ。何ならクロフォード家のことだって気にしなくていい。君は、自分が幸せになることだけを考えればいいんだ」
「私の……幸せ?」
「そう、人は誰でも、自分の幸せを一番に考えていいんだから」
私自身の幸せ。
そんなことは、一度も考えたことがなかった。
自分の幸せを一番に考えればいい。そんな風に言ってくれる人は、これまでいなかったから。
「ルクス、私は幸せになれるかな?」
「なれるさ。僕はなるよ。母様やジュリア姉様の分までね」
ルクスの透き通ったペリドットの瞳が、不思議な光彩を放つ。
私と同じ瞳を持った、私の双子の兄ルクス。
ルクスが急に大人びて見えて、私は何だか、置いてきぼりになったような気がしてくるのだった。
それからというもの、何度かセーラ・アングラードへの接触を試みたが、セーラは常にドミニクと一緒にいるので声をかけることができない。
登下校の馬車まで一緒なのだから笑ってしまう。
そうしてなんの成果もないまま、1ヶ月という月日が過ぎてしまった。学園内は、もうすぐ始まる学園祭の準備で活気づいている。
学園祭は2日間。目玉は、最終日の夕方から開催されるダンスパーティーだ。
王家などが主催する正式な舞踏会では、婚約者がいれば婚約者と同行し、ファーストダンスを踊らなければならないが、学園のダンスパーティーでは好きな相手をパートナーに誘うことができる。
ただし誘うのは男性からで、一輪の黄色い薔薇を差し出し、受け取ってくれればOK、受け取ってもらえなければ断られたということになる。
学園祭が近づくにつれ、生徒達が浮かれたようになっているのはこのダンスパーティーがあるから。
婚約者と参加すれば他の生徒に見せつけることができるし、婚約者がいない者、婚約者以外に意中の相手がいる者には思いを伝えるチャンスになる。
ドミニクは、セーラをパートナーに誘うだろう。
そう思っていたのに、その月の茶会で、ドミニクから黄色い薔薇を渡された。
(何の冗談よ)
相変わらず無表情なドミニクは、薔薇を差し出した時ですら眉一つ動かさない。
婚約者である私が同じ学園にいるのに、他の女生徒をダンスパーティーに誘えば、婚約者としての義務を果たしていないということになってしまう。大方、そんな風に考えているのだろう。
(それなら……。この薔薇を拒否すれば、こちらが婚約者としての義務を果たしていないってことになるんじゃない? それじゃあ、私の方が有責になってしまうじゃない!)
婚約破棄のことばかり考えていたせいで、思考がそちらに引っ張られてそんな結論に至ってしまったのだ。
(これは……。受け取らなければ大変なことになるわ!)
ドミニクの手から黄色い薔薇を受け取る。
ドミニクは、「当日の午後に迎えに行く。支度をしておくように」と告げて帰っていった。
週明けのお昼休み。
今日のお弁当タイムはケイトと二人きりだ。
ルクスとジェレミーは、女の子たちに囲まれて動けなくなっている。
みんな、二人からの黄色い薔薇が欲しいのだ。
お弁当を食べ終わる頃、ルクスとジェレミーが中庭にやって来る。
「まいったな。モテる男は大変だよ」
なんて言いながら、ヘラヘラ笑っているルクス。
我が兄ながら少し情けなくなる。
ジェレミーといえば、苛立った様子を隠しもしない。女の子たちに囲まれるのが、よほど苦痛だったようだ。
お弁当を広げて食べ始めたルクスに尋ねてみる。
「それで、黄色い薔薇は誰かに渡したの?」
「今年は誰にも渡さないよ。僕を巡って女の子たちが争う姿は見ていられないからね。ダンスパーティーは見学かな」
そう答えたルクスは、ジェレミーのお弁当のおかずを摘むと、
「ジェレミーは?」
と尋ねる。
「俺は……。まだ渡してない」
「まだね」
ジェレミーの言葉に被せるように、意味深な言い方をするケイト。それから少し間があって、ジェレミーが伏せていた視線を上げた。
「アイリスは?」
「えっ?」
「黄色い薔薇、貰った?」
「私は……」
不本意だったとはいえ、私はドミニクからの黄色い薔薇を受け取っている。
「私は、婚約者がいるから……」
「……そうか」
そう呟いて、自分の影に視線を落とすジェレミー。
その様子を見ていたルクスが、空を仰いで大きな溜め息をついた。
ルクスとジェレミーがお弁当を食べ終え、教室へ戻る支度をする。
私達が背を向けた時、ジェレミーが花壇に何かを投げ込んだような気がした。
「……? みんな、先に戻ってて」
三人を見送って、チューリップやパンジーが咲く花壇を覗き込む。
そこに落ちていたのは、握りつぶされてぐしゃぐしゃになった黄色い薔薇。
(ジェレミー?)
ジェレミーは、黄色い薔薇を誰にあげたかったのだろう。
潰れた黄色い薔薇を拾った私は、ハンカチに包んでそっとポケットにしまった。
セーラ・アングラードと話ができたのは、学園祭の前日のことだ。
一人で職員室に入っていくドミニクを見かけた私は、急いでセーラの姿を探した。
「セーラさまぁ! お会いしたかったですわ!」
セーラの腕に自分の腕を絡めて、有無を言わさずぐいぐいと引っ張っていく。
セーラは、「なっ、何をするのよ!」なんて叫んでいるけど、どうやら私の方が力が強かったようだ。抵抗虚しくズルズルと引きずられている。
向かったのは、私とセーラにはお馴染みの機械室の裏の敷地。この時間、人の出入りがないことを私は知っている。
「何なんのよ、一体!」
腕を振りほどき、キッと私を睨むセーラ。悲しいかな、怖いどころかむしろ愛らしいくらいだ。
「わたくし、先日セーラ様とお話した後で考えたのです。やはり、惹かれ合う運命の二人を引き裂くことなどできないと。それで、父に相談したのです」
私の話に警戒を解いたセーラが、前のめりになって尋ねてくる。
「それで、クロフォード伯爵は何と?」
「やはり、婚約破棄など許さないと。ただ……」
「ただ?」
「ドミニク様とそのお相手が相思相愛である証拠があれば、許してやらないこともない。父はそう話したのです」
「まあ!」
セーラの黄瑪瑙の瞳がぱっと輝き、バラ色の頬がますます紅潮していく。
「それで、わたくしはドミニク様の運命のお相手を探しているのです。セーラ様、お心当たりはないでしょうか?」
私の問いかけに、満を持してといった様子で答えるセーラ。
「それは……私よ!」
セーラは平静を装っているけれど、口元があきらかに緩んでいる。
(これだから、セーラって憎めないのよね)
私は、一世一代の馬鹿な令嬢の演技を続けた。
「まぁ! こんなに美しい方がドミニク様の想い人だったなんて。どうりで、私など眼中にないはずですわ!」
口をへの字に結んで、顔がにやけるのを必死で我慢しているセーラ。ますます憎めない。
「それで、ドミニク様とセーラ様が相思相愛である証拠はありますか? 例えば手紙。ドミニク様からの恋文などがあればよいのですが」
「手紙は……ないわ。ドミニクはそういうことをするタイプではないの」
(まさか、好いているセーラにまで手紙一つ出していないなんて……。ドミニクって、冷血を通り越して心がないんじゃない?)
手紙がないのなら、ルクスが話していたもう一つの方法を実行するしかない。
「てっ、手紙がなければ、婚約破棄はできないの?」
焦りを隠しきれず、声を裏返しながら尋ねるセーラ。
私はそんなセーラを、真っ直ぐに見つめた。
「いいえ、一つだけ方法があります。ただし、この方法を実行するには、セーラ様の協力が不可欠なのです。セーラ様、協力して下さいますか?」
「もちろんよ!」
「それでは……、お耳を拝借します」
それから私は、セーラに耳打ちをした。
学園祭1日目。
普段は使われていない談話室の前に、私は立っている。
午後1時。計画通りなら、ドミニクとセーラはこの中にいるはずだ。
(行くわよ!)
勢いよくドアを開けた私は、思いがけない光景に言葉を失った。
「!?」
談話室の真ん中で、抱き合うドミニクとセーラ。
正確には、セーラがドミニクに抱きついている。
(密室に二人でいてくれるだけでよかったのに、まさかここまでしてくれるなんて……。このチャンス、絶対に逃さないわよ!)
大きく息を吸って、私は大声を上げた。
「きゃーーーー!」
私の叫び声を聞きつけて、近くにいた二人の女生徒が駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「何があったの?」
「あれを……!」
談話室の中を指さすと、抱き合っている(正確には抱きつかれている)ドミニクとセーラを見た女生徒たちは、困惑した声を上げた。
「えっ!?」
「ドミニク様とセーラ様?」
文化祭の初日である今日は、授業が休みのため、大勢の生徒が廊下を行き来している。
騒ぎを聞きつけて、談話室の前に生徒がどんどん集まってきた。
慌てたドミニクがセーラを突き放そうとしたけれど、セーラはドミニクの体にしがみついて離れようとしない。
ドアの前には、我もわれもと押し合いながら中を覗こうとする生徒たち。
まるで、動物園のライオンかサーカスの見世物だ。
(今だわ!)
目の前で不貞をする婚約者と大勢の目撃者。こんなチャンス、二度と訪れることはない。
談話室に入り二人のすぐ側で足を止めた私は、野次馬にも聞こえるように声を張り上げた。
「ドミニク様、婚約破棄してください!」
「断る!」
(はぁ!?)
「私はあなたの不貞を、たった今、この目で目撃しました」
「不貞ではない、これは事故だ」
「目撃者がこんなにいるのですよ」
「だから、これはただの事故だ」
こんな状況にもかかわらず、一切の動揺を見せないドミニクは、私の言葉を平然と否定する。
その時、
「何事だ!」
若々しいが威厳ある声が、談話室の中に響いた。
声の主は、アレクサンドル王子殿下。
派手な令嬢を大勢従えた王子殿下が、いつのまにか私のすぐ後ろに立っていた。
「アレクサンドル王子殿下!」
近くに待機して様子を伺っていたルクスが、慌てた様子で駆け寄ってくる。
「お騒がせして申し訳ございません。クロフォード伯爵家長男のルクス・クロフォードと申します。隣にいるのは、双子の妹アイリス・クロフォードです」
ルクスがボウアンドスクレープをし、私もカーテシーをする。
「学園内でそのような堅苦しい挨拶は不要だ。それで、何があったのだ?」
王族だけに受け継がれる赤い瞳で、私とルクスを見下ろすアレクサンドル王子。
顔を上げたルクスがそれに答えた。
「たった今、我が妹アイリスが婚約者の不貞を目撃しました。そこで妹は、婚約者であるドミニク・カスティル公爵令息に婚約破棄を申し出たのです」
「ほう!」
ルクスの話に、アレクサンドル王子が興味深そうに顎を擦る。
対してドミニクは、無表情を貫いたままそれを否定した。
「いいえ、王子殿下。私は不貞などしておりません」
「目撃者が大勢いますわ」
「そんなもの、何の証拠にもならない」
こちらを一瞥すらせず、私の言葉を退けるドミニク。
王子殿下まで巻き込んでいるのに、全く動じないその姿に腹が立ってくる。
計画が水泡に帰した苛立ちも相まって、私は声を荒らげてしまった。
「あなたは、自分がした事の責任を取らないつもりですか!?」
「僕は不貞などしていない!」
私の言葉に被せるように、ドミニクも怒号を吐く。
すると、何か閃いたように笑みを浮かべた王子殿下が、気を取り直したように真剣な表情をしてこんなことを言った。
「お前たちの話は理解した。それならば、私に良い考えがある。この国の第二王子の名にかけて、どちらの主張が正しいか審議する場を設けよう。明日の夕方、場所はダンスホール。…………婚約破棄裁判だ!」
その瞬間、私は心の中で絶叫した。
(婚約破棄……裁判!?)
学園祭最終日。
本来なら、学園祭の目玉であるダンスパーティーが行われているはずのダンスホールの真ん中に、私とドミニクは並んで立っている。
噂を聞きつけた生徒が押し寄せ、ダンスホールの入り口はちょっとしたパニックになっていた。
来賓席に座っているのは、父、カスティル公爵夫妻、セーラの父であるアングラード侯爵。
(あらら……。役者が揃ってるわね)
父兄としてダンスパーティーを見に来たはずが、自分の子供がダンスホールの真ん中に立たされているものだから、父もカスティル公爵夫妻も戸惑いを隠せないでいる。
そんな中、セーラから何か聞いているのか、アングラード侯爵だけが意味深な笑みを浮かべていた。
「静粛に!」
アレクサンドル王子のよく通る声が、ダンスホールにこだまする。
「この国の貴族の令息、令嬢は、親の決めた相手と婚約し、その相手がどんな人格であろうと夫婦にならなければならない。僕はこの国の王子として、この慣習に一石を投じたいと思う。賛同するものは拍手を」
ダンスホールに集まった生徒たちは、まだ状況を把握できていないのか、疎らな拍手を送るだけだ。
気にする様子もなく、アレクサンドル王子は話を続けた。
「本日この場を借りて、婚約破棄裁判を執り行いたいと思う。当事者は、ドミニク・カスティル公爵令息とアイリス・クロフォード伯爵令嬢だ」
さも尤もらしく話すアレクサンドル王子殿下。だけど私は、昨日ルクスからこんな話を聞いていた。
「王子殿下のやつ、ダンスパーティーのパートナーを一人に絞りきれなくて、婚約破棄裁判をやるなんて言い出したんだぜ」
「どういうこと?」
「痺れを切らした取り巻きの女の子たちが揉め始めたものだから、ダンスパーティー自体を中止にしようと画策したのさ。職権乱用……もとい身分乱用だよな」
(とんだ茶番じゃない。ああ、頭が痛くなってきた)
その時、
「よろしいでしょうか?」
後方の父兄席から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「私はそこにいるアイリス・クロフォードの姉、セリーヌ・クロフォードと申します。この度コルタナス大学の法学部を飛び級で卒業し、弁護士資格を取得しました。平等に尋問することを帝国の太陽に誓いますので、この裁判の尋問を任せては頂けないでしょうか?」
「セリーヌ姉様!?」
法服に身を包んだセリーヌが、そこに立っていた。
「良いだろう。それではこの裁判は、私、王子アレクサンドルの名の下、セリーヌ・クロフォードの尋問によって行われるものとする。婚約破棄裁判の開廷を、ここに宣言する!」
こうして、婚約破棄裁判が幕を開けた。