忘れ去られた「おまけ令嬢」なので、家族の愛は望みません
15章 私たちの未来
王立学園を卒業してから10年が過ぎた。
今日、念願だったソレイユ初等教育学園が開校する。
貴族、平民、身分に関係なく、大人、子供、年齢に関係なく、誰でも平等に字の読み書きを学べる学校。
もちろん字の読み書きだけでなく、様々な初等教育を受けることが出来る。
ルクスとジェレミーがアレクサンドル第二王子に掛け合い、アレクサンドル第二王子が、
「身分関係なく学べる場があれば、才能のある若者が数多く誕生します。そうなれば、将来この国の国力は飛躍的に向上するでしょう」
と王様に進言してくれたおかげで、ソレイユ初等教育学園は国が運営する国家機関になった。
授業料の免除が実現したおかげで、平民の子供の入学希望者が殺到したけれど、その一方で、入学した生徒の中に貴族の子供は一人しかいない。
家庭教師を雇うのはお金がかかる。
財政的に助かる家も少なくないはずだが、この学園に子供を入学させることは、家門の財政が傾いていると世間に公表するようなものだと感じるのだろう。
貴族たちの抵抗を失くすには、まだまだ時間がかかりそうだ。
だけど、私は信じているのだ。
平民の子供と貴族の子供が机を並べて勉強する。
そんな未来が いつか必ず来ることを。
それから、大人が通えるよう夜間部も設立され、日中は仕事をしている平民たちが、字の読み書きを学びたいと数多く入学してくれた。
「いよいよですね」
門の前で校舎を見上げながら、キース先生が感慨深く目を細める。
相変わらずのいい声だ。
「よろしくお願いしますね、校長先生」
「校長といっても、私は積極的に教壇に立って、教鞭を取るつもりですからね」
「もちろんです、キース先生」
キース先生の隣に立つマリーが、柔らかく微笑む。
「おめでとうございます、アイリスお嬢様」
「ありがとう、マリー」
マリーの周りで、小さな男の子と女の子がじゃれ合っている。
マリーとキース先生の子供、双子の兄妹だ。
数年前、王家がある宣言をした。
双子の言い伝えは、数百年前に起きた後継者争いが歪んで伝わったもので、双子の呪いなど存在しないと。
どうやら、父が王様に圧力をかけたらしい。
おかげで、双子を不吉だという人は、もうこの国にはいない。
「みんな集まってるね」
ルクスとケイトがやって来る。
ケイトは領地経営にその頭脳と聡明さを遺憾なく発揮し、クロフォード伯爵家とその領地はますます豊かになった。そしてルクスは、そんなケイトの尻に敷かれているのだ。
その時、
「ママ! パパ!」
「シャーロット!」
女の子が駆け寄ってくる。
薄茶色の髪に、光によって変わる瞳。
私とジェレミーの娘だ。
6歳になるシャーロットは、今日からこの学園の生徒になる。
「シャーロット、学校は楽しみか?」
シャーロットの視線の高さに身を屈めながら、ジェレミーが尋ねる。
シャーロットは、満面の笑みで答えた。
「うん! 楽しみ! とっても楽しみ!」
私たちの物語は、まだ始まったばかり。
これからも、様々な困難が訪れるだろう。
だけど怖くはない。
だって、私はひとりじゃないから。
「おはようございます!」
期待に胸を膨らませながら、あるいは少し不安気に周りを気にしながら、生徒たちが次々に登校してくる。
私は、隣に立つジェレミーと視線を合わせた。
ジェレミーが頷き、私も頷く。
「行ってくるわね」
「ああ。行ってらっしゃい、アイリス先生」
背筋を伸ばし、前を向いて、私は歩き出す。