「おまけ令嬢」アイリス・クロフォードは、人生をやり直す

七章 王立学園


 12歳、私とルクスは王立学園に入学した。

 前世、病弱だったルクスは学園への入学が叶わず、私は学園の寮で生活していた。
 私とルクスが同じ馬車で登校する日が来るなんて、一体誰が想像できただろう。
 そう考えると、とても不思議な気分になる。
 この1年と半年ですっかり健康を取り戻したルクスは、学園に入学する日を誰より心待ちにしていた。

 グリーフィルド王立学園。
 中等部と高等部どちらも3学年から成り立ち、クラスは各学年1クラスずつ、生徒数は200人余りだ。
 余程の事情がない限り、貴族の子供は12歳になるとこの学園に入学する。
 ここで勉学に励むと同時に、社交を学び人脈を作るのだ。
 学園に通うのは貴族だけではなく、生徒の約3割は平民だ。
 大半は裕福な商家の子供だが、各クラスに数人、特待生試験をパスして入学した生徒がいる。
 
 尊卑貴賤の別なく、生徒は皆平等である。
 学園はそう謳っており、貴族だからと過度な装飾品で着飾ることは許されていない。
 制服は全学年共通のブレザーだが、貴族と平民で違うところが一箇所だけあった。
 それは、首元のタイやリボンで光る宝石。
 
 昔、どこぞの貴族令嬢が、自分が貴族であることを誇示する為にリボンに宝石を付けたのが大流行し、令嬢ならリボン、令息ならネクタイに宝石を縫い付けるのが伝統になっている。
 つまり、リボンやタイを見れば、貴族であるか平民であるかが一目で判ってしまうのだ。
 かくいう私のリボンの端にも、マリーが縫い付けてくれたペリドットが小さく光っている。
 自分の瞳の色か婚約者の瞳の色の宝石を付けるのが主流で、ルクスのネクタイにも私と同じペリドットが光っているのが、まるでお揃いみたいで何だか気恥ずかしい。

 学園に到着し馬車を降りた瞬間、四方八方から注がれる視線を感じた。
 ルクスに釘付けになっている女の子達の視線だ。
 スラリと伸びた手足にバランスの良い体。
 太陽より眩しく光る金色の髪。
 白い肌に透き通るようなペリドットの瞳。
 幼い頃の青白くやつれた顔に見慣れてすっかり忘れていたが、ルクスは母やジュリアに似た超絶美形なのだ。
(あんまり目立ちたくないのに、ルクスといると目立ってしまうわね)

 学園にはいい思い出が一つもない。
 字が読めないことを知られるのが怖くて、いつも下を向いて怯えていたから。
 そして、そのせいでいじめられていたのだ。
 教室のドアの前。
 前世とは違うとわかっていても、足がすくんでしまう。
 その時、
「アイリス、どうした?」
 心配そうに眉を八の字にしたルクスが、少し屈んで私の顔を覗き込んだ。
 ルクスのペリドットのような瞳に、同じ瞳をした私が映る。
(大丈夫よ。私以外は、誰も前世の出来事を知らないんだから)
 深呼吸をして教室のドアを開けると、中にいた生徒が一斉にこちらを見た。
 その瞬間、足の裏が地面に張り付いたように動けなくなる。
 だけど……。
(何だ、みんなルクスを見てるだけじゃない)
 ほっと胸を撫で下ろした私は、安堵のため息を漏らしたのだった。

 入学式やオリエンテーションは昨日までに終わっていて、今日から本格的に授業が始まる。
 授業によって席が指定されている授業とそうではない授業があり、後者の場合は自分の好きな席に自由に座ることができる。
 最初の授業は後者。
 私は、“あの子”を探した。

 その時、
「ねぇ、あなた」
 聞き覚えのある声が私を引き留めた。 
「あなた、ルクス君の双子の妹なんですってね」
 私の行く手を阻む三人の少女。
 その顔をよく覚えていた。

 エミリー・ローレンス
 イザベル・ドパルデュー
 レイチェル・ディートリッヒ

 前世で私をいじめていた主犯格の三人だ。
 侯爵令嬢のエミリー・ローレンスと、エミリーの金魚の糞のイザベルとレイチェル。
 縦ロールに巻いたストロベリーブロンドをツインテールに結び、制服のリボンの結び目に否が応でも目につく特大のエメラルドを光らせ、腕組みをしているエミリー。
 その後ろに立つイザベルとレイチェルが、貼り付けたような笑みを浮かべながら私に話しかけた。
「一緒に座らない?」
「仲良くしましょうよ!」
 前世であれほど私を見下していた三人の少女は、今世ではルクスの目に留まりたいが為に、私に取り入ろうと愛想笑いを浮かべている。
 そのくせ私の名前を覚えてもいないところに、彼女達の気持ちが透けて見えた。
「私はいいわ」
 それだけ言ってその場を去る。
 私は、“あの子”を見つけたいのだ。
(見つけた……!)
 廊下側の一番端、前から4番目の席に、“あの子”が座っていた。

 ケイト・ベアール
 前世で、唯一私に親切にしてくれた少女だ。

 前世、一人だけ王立学園に入学した私は、寮で生活するよう父に命じられた。
 学園の寮で暮らすのは平民だけ。
 つまり、寮生の中で貴族は私一人だけだったのだ。
 マリーがリボンに縫い付けてくれたペリドットを見ると、皆不思議そうに首を傾げるか訝しげに目を反らした。
 誰も私に話しかけない。見て見ぬふりをする。

 慣れない寮での暮らしに戸惑った。
 家族に顧みられなかったとはいえ、私はマリーというメイドに世話をされ生活していた貴族令嬢の端くれだったのだから。
 その上、私は字が読めなかった。
 最初に渡された寮生活の注意事項が書かれた冊子すら読めなかったのだ。
 そんな私に声をかけてくれたのが、同じ寮生だったケイト・ベアールだ。
 
 ご飯のよそい方もわからない。お湯の出し方もゴミの捨て方さえわからない。 
 戸惑う私に、ケイトは何度も声をかけてくれた。
 全ては事務的な会話だった。
 それでも、ケイトの存在にどれだけ救われたかわからない。
 だから今世では、絶対にケイトと友達になろうと決めていたのだ。

「隣いい?」
 驚いたように顔を上げたケイトは、私のリボンの端で小さく光るペリドットに気がつくと、怪訝そうに目を細めて私の顔を見た。
 貴族令嬢がどうして私に? そう言いたげな表情をしている。
「……はい。お好きにどうぞ」
 けんもほろろなそっけない態度に、私の心は少しだけ折れそうになる。
(これは、一筋縄ではいかないわね)
 それでも、ケイトにもう一度会えたことに、私は心の底から満足していた。
 エミリー達が、敵意を剥き出しにした目でこちらを睨んでいることにも気付かずに………。


 その日の放課後。
 ケイトと話したかった私は彼女を探したけれど、鞄はあるのにその姿は見当たらない。
 ルクスを馬車で待たせているので、少し待ったものの諦めて帰ることにした。

 教室がある棟と玄関ホールを繋ぐ長い渡り廊下。
 その途中で、数人の人影を見留める。
(ケイト!)
 そこに、三人の女生徒に囲まれ下を向いているケイトの姿があった。
 ケイトを取り囲んでいたのは、エミリーとイザベルとレイチェル。

「平民のくせに、貴族に取り入ろうとしてるんじゃないわよ!」
 そう言って、エミリーがケイトの肩をどつく。前世の私にそうしたように。
(私はバカだ、大バカだ。人生をやり直してるのに、少しも成長していない。あの意地悪な子たちが、私に袖にされて怒らないわけがない。その怒りは平民のケイトに向けられると、少し考えればわかるのに……)
 足元がぐらりと揺れ、倒れそうになる体の均衡を必死で保った。
(助けないと!)
 わかっているのに、どうしても足が動かない。
 前世でエミリー達に浴びせられた、私の自尊心を根こそぎ奪った心無い言葉達。
 その言葉達が、一瞬で時を超え耳元で鳴り響いていた。
 そのせいで、私の体は私の意思に反してびくりともしないのだ。
(悔しい! 悔しい! 悔しい!)
 零れ落ちそうな涙を、必死で堪えていた時だった。

「あ〜あ」
 いつの間にか、私の隣に一人の男子生徒が立っていた。
 少しボサボサな焦げ茶色の髪に、飴色に光る切れ長の瞳。
 見上げなければならないくらい背が高く、タイで宝石は光っていない。
「これだからお貴族様は」
 ぶっきらぼうにそう吐き捨て、歩いて行く男子生徒。
 それから、ケイトを取り囲むエミリーの背後に立つと、ストロベリーブロンドのつむじを見下ろしながらこう言った。
「通行の邪魔なんだけど」
「何よ!」
 振り向いたエミリーは、自分を見下ろす男子生徒の存在に気づき顔を引きつらせる。
 それからイザベルとレイチェルに目で合図をし、
「行きましょう!」
 と言って足早に去って行った。  

(……?)
 あっさり引き下がるエミリー達に、思わず拍子抜けしてしまう。
 わけが分からず立ち尽くしていると、振り向いたケイトとばっちり目が合った。
「ごめん……。ごめんね」  
 言いたいことは山程あるのに、それしか言葉が出てこない。
 すると、こちらに向かって歩いてきたケイトが、私の目の前で足を止めフッと息を吐いた。
「あなたがあの子達と仲良くしない理由がわかったわ。だってあの子達……。香水の匂いで鼻がもげそう!」
 我慢できずに笑い出すと、堪えていた涙がぼろぼろと溢れ出す。
 そして、それを見たケイトも笑った。


 ケイトを寮の前まで送り届け、ルクスの待つ馬車に向かう。
 なぜだかさっきの男の子が、当たり前のように隣を歩いていた。
(同じ方向なのかしら?)
 焦げ茶色の髪に、夜空の星を宿したようなレモンイエローの切れ長の瞳。
(あら? さっきは飴色に見えたけど……)
 とにかく、貴族の令息にはいないようなエキゾチックな顔立ちをしている。

「あの……。さっきはどうもありがとう」
 礼を言うと、背の高い彼が屈み込んで私の顔を覗き込む。
 さっきまでレモンイエローだった瞳が、柔らかなライラック色に変わっていた。
(光の受け方で、瞳の色が変わるんだ)
 この国に20人ほどしかいない、とても珍しい瞳だ。
(きれいね) 
 思わず見惚れていると、私の顔を覗き込んだままの彼が尋ねた。
「ねぇ、俺のこと知ってる?」
(前世でこんなに目立つ子いたかしら?)
 学園に在籍した期間はたったの1ヶ月だけだし、男子生徒はいじめに加担していた貴族の令息しか覚えていない。
「えっと……、ごめんなさい」
「クラスメイトなんだけどね」
 不機嫌そうな声を聞いて、取り繕うように自己紹介をした。
「私はアイリス・クロフォード。よろしくね」
「俺はジェレミー・シュナイダー。ジェレミーでいいよ」
(シュナイダー!)
 国で一番大きな商団を所有し、あらゆる貿易で成功している商家シュナイダー家。その名前を知らない者はこの国にいないだろう。
 この国で暮らす全ての民が、どんな形であれ、一度はシュナイダー商団が販売する商品を使用した経験があるはずだ。
 平民には違いないが、その辺の貴族より余程の大金持ちだ。
(どうりで……)
 あっさり引き下がったエミリー達を思い出す。
 シュナイダー家の影響力は計り知れない。敵に回したくはなかったのだろう。

 門の前に停まっているクロフォード家の馬車に辿り着くと、窓越しにルクスの金色の髪が見えた。
「私、あの馬車だから」
「ああ、俺はあっち」
 視線の先にあったのは、王室馬車にも劣らない象牙色の豪奢な馬車。
(さすがはシュナイダー家!)
 馬車に乗るために背を向けると、ジェレミーが私の名前を呼んだ。
「アイリス! また来週な!」
「ええ。また来週!」
 大きく手を振るジェレミーと足元から伸びる長い影。
 ジェレミーの瞳は、太陽と同じオレンジ色をしていた。


「待たせてごめんね」
 待ちくたびれたように伸びをしたルクスが、窓の外に目を遣る。
「あれってジェレミー・シュナイダーだろ? いつの間に仲良くなったのさ」
「あの子のこと知ってるの?」
「知っているも何も、ライバルだからね」
 そう言って、ニヤリと笑うルクス。
「ライバル?」
「新入生の中では、僕とジェレミーが女の子の人気を独占してるからさ。ジェレミーは平民だけど、あのシュナイダー家の息子だからね。貴族とは名ばかりの貧乏貴族に嫁ぐより余程いいだろ? ヤツを狙ってる令嬢はたくさんいるのさ。それに、何ていうか……。シュッとして神秘的な顔をしてるしね。まぁ、今のところは僕の方が優勢かな」
(ルクスってば、健康になって人格変わったんじゃない?)
 得意げなルクスの様子に、さすがに呆れてしまう。
 とはいえ、入学してからまだ数日しか経っていないのに、ルクスのモテっぷりが凄まじいのは確かだ。
「女の子達が、あなたのこと金髪の王子様なんて呼んでたわよ」
「王子様か……。悪くないね。だけど、学園には本物の王子様がいるからなぁ。中等部高等部合わせても、一番人気は断トツでアレクサンドル王子だね」 
 アレクサンドル王子とは、高等部3年に在席するこの国の第二王子だ。学園の生徒会長でもある。
「ちなみに、君の婚約者も人気らしいよ、アイリス」
「はぁ?」
「黒い髪、黒い瞳のミステリアスな漆黒の貴公子ってさ。悪い気はしないだろ?」
(ミステリアスって……。ただ無表情なだけじゃない!)
 呆れ返った私は、返事の代わりに大きな溜め息をつく。
 週末である明日、月に一度の茶会があることを思い出したからだ。
(まったく……。嫌なことを思い出させないでよね!)
 私はルクスを睨みつけて、心の中で悪態をついたのだった。
 
   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「お嬢様、婚約者のドミニク様がいらっしゃいました」
 月に一度の決まり文句であるマリーの台詞が、私の耳に届く。
 王立学園に入学してから初めての茶会だ。 

 マリーがクローゼットから取り出したのは、首元と袖に小花の刺繍が施されたサファイヤブルーのドレス。
 新しいドレスを買ってやると言う父に、ドレスより参考書が欲しいと答えると、なぜだか次の日には仕立て屋が部屋を訪ねてきた。
 父の態度は以前よりマシになったけれど、自分の罪悪感を物を与えることで帳消しにしようとするところは、大人としていかがなものかと呆れてしまう。
 屋敷の外れにあるこの部屋まで来た仕立て屋を追い返すこともできず、マリーと相談しながら幾つかのドレスを仕立て、サイズの合う新しい靴を注文したのだ。
(一番最初に見せるのがドミニクなのが癪に障るけど……。まあ、いいわ。どうせドミニクは私を見てやしないんだから)
 サファイヤブルーのドレスに着替え、去年の誕生日にセリーヌから貰ったペリドットのアクセサリーを着ける。
(なかなかいい感じなんじゃない?)
 それから一呼吸して、ドミニクのいる庭園へ向かった。

 私の婚約者は、いつものように私を待たずに一人でお茶を飲んでいる。
 私を拒絶するかのようなその態度に、前世の私は茶会の度に傷ついていたのだ。
(まぁ、今となってはどうでもいいことね)

 4つ年上のドミニクは、王立学園高等部の2年生だ。
 中等部と高等部は教室のある棟が違うだけで、食堂や体育館、談話室などは共同で、部活動も一緒に行っている。
 その為、学園に入学してから何度かドミニクの姿を見かけていた。
 私とドミニクは、ドミニクの方が遥かに身分が高い。
 同じ学園に在籍しているのだから、私の方から挨拶に行くのが筋だ。
 入学してから一度くらい挨拶に行こうと考えていたけれど、結局それはできていなかった。
 ドミニクの隣に、いつも同じ女生徒がいたから。

 若草色の豊かな髪をはためかせ、さもここが自分の居場所だというように、誇らしげにドミニクの隣に立っている少女。
 セーラ・アングラード侯爵令嬢。
 その名前を初めて聞いたのは、前世で、ジュリアの口からだった。
「あんたの婚約者、この間あんたと婚約破棄したばかりなのに、もう次の相手と婚約したみたいよ。あんたと婚約破棄できたのがよほど嬉しかったみたいね!」
 その相手がセーラ・アングラードだ。
 ジュリアの話によれば、私とドミニクが婚約する前、セーラはドミニクの婚約者筆頭候補だったそうだ。
 つまり、元々婚約する予定だった二人が、カスティル公爵が作った借金のせいで婚約できなくなってしまったのだ。
 前世のドミニクは、私との婚約破棄から一ヶ月もしないうちにセーラと婚約した。
 それ程に、セーラとの婚約を望んでいたのだろう。
(ドミニクが、セーラのことを好いているのは間違いないわね)
 セーラがドミニクを好いていることは、セーラの態度を見ていればわかる。
(ということは……。私は好き同士の二人を引き裂く悪役ってことじゃない!)

 クラスの女の子達が、こんな会話をしていたことを思い出す。
「このリボンのタンザナイト、入学祝いに婚約者の〇〇様に頂いたの。〇〇様の瞳の色なのよ」
「まぁ、きれい! 私はルビーのネックレスを頂いたわ。宝箱にしまってあるのよ」
 私には、まるで縁のない会話だった。
 入学祝いどころか、これまでにドミニクから贈り物を貰ったことなど一度もなかったから。
(婚約者がセーラだったなら、きっと山程の贈り物を贈ったんでしょうね)

 ふと思う。
 私もドミニクもこの婚約を望んでいないのに、どうして私たちは、こうして向かい合って座っているのだろう。
(セーラが好きだと、ドミニクが打ち明けてくれたら……。私とドミニク、二人で協力すれば、円満に婚約破棄する方法が見つかるんじゃない?)
 恐る恐る口に出してみる。
「あの……。好きな人、いないんですか?」
「は?」
 思っていたのとは違う、どすの利いた「は?」が返ってくる。
(いやいや、あなたのためを思って聞いてるのよ!)
「ドミニク様ももう16歳ですから、好きな人の一人や二人いるんじゃないかと……。私、協力します。あなたが好きな人といられるように……」
 ガシャン!  
 持っていたティーカップを、乱暴にソーサーに打ちつけるドミニク。
 それから、その黒曜石のような瞳で私を睨みつけた。
「君は、そんなに僕と婚約破棄したいのか!」
 呆気に取られた私は、ティーカップを持ったままドミニクを見返すことしかできない。
「帰る!」
 ドミニクの言葉に、咄嗟に時計を見る。
 まだ15時になっていない。
 何が何でも15時に帰っていた人が、いくら怒らせようとしても殆ど表情を変えなかった人が、怒りに任せて立ち上がり、肩を揺らして去っていく。
 ドミニクがなぜあんなに怒り出したのか、私にはさっぱり理解できなかった。
「あの男の怒りのトリガーは、一体何なわけ?」
 そうして一人残された私は、途方にくれて呟くのだった。

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