月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ

第一話 私を起こす愛



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 桐杏(きりあん)は山の頂にひとりでいた。ここはフルハ島。東カンテラ皇国にある、人口三百名ほどの小さな島だ。海が見渡せるこの山は、桐杏のお気に入りの場所である。


 桐杏は崖の近くの岩に座って、にぎりめしを包んでいる笹の葉を広げた。にぎりめしは米と大根の葉を醤油などの調味料で炒めたものだ。これは桐杏の母・君火(きみひ)の手料理である。桐杏の家庭だと、焼いた飯は箸で食べることが多いけれど、娘が外でも食べやすいようにと、君火は飯を握り固めていた。


「フン、フ、フン」


 桐杏はにぎりめしを食べながら、鼻歌を歌う。その鼻歌に合わせて、桐杏のまわりに風が舞い、目の前の海は波が立った。木々には小鳥たちが集まってくる。小鳥たちは桐杏の鼻歌にぴったりの鳴き声を出す。自然界のものたちは、桐杏が頭で思い描く旋律をかわりに表現していた。
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