月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ
第二話 私を作るあなた
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十五年の人生で、桐杏が島を出たのはこれが初めてだった。舟が本土に着くと、役人たちは桐杏を馬車に乗せる。
桐杏は馬車の中から外の景色を見た。目に映るものすべてが彼女を新鮮な感覚にさせる。桐杏は子どもの頃から海をながめては、人生のいちどくらいは島を出てみたいと思っていた。島に川は流れておらず、海しか見たことがなかったから、川を見てみたいと。バロンまでの旅は絶望でありながら、すぐには命を取られないという余裕があるからか、心はほんの少しわくわくとしていた。桐杏はそんな自分に嫌悪する。