月色の部屋で、第三夜伽は皇子の愛を待つ
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翌日。桐杏はひとりぼっちの家で黙々と作業をこなしていた。役人が桐杏の家に来るのは食事を持ってくる時や、縫製に必要な道具を持ってきたり、それを回収する時くらいで、それまでの暮らしと比べて、人との関わりが極端に少ない。ほかに聴いてくれる人がだれもいないとわかっているものの、桐杏は久しぶりに新曲を作る気になっていた。失うことのできない音楽への情熱が今の桐杏の心を支える。
夜。桐杏が部屋の窓から満月を見つめていた時だった。
「女、寧丸皇子が呼んでいる。ただちに来るのだ」
初対面の役人が家の開き戸を開けるやいなや、桐杏に命じる。もう自分の名前すらも呼ばれないのかと、桐杏は思う。役人の男は桐杏が武器を隠し持っていないか、簡易な身体検査をする。島まで役人が迎えに来た時と同様、会ったばかりの男に体を触られることは、桐杏に屈辱をおぼえさせた。