政略結婚した顔も知らない夫に気づけば溺愛されていたようです~御曹司は甘く攻めて逃がさない~
 私よりも五歳年上の三十歳。いつもさわやかで感じがいい。スタッフに対しても丁寧で人気がある、周囲に気配りのできる人だ。

 そんな普段の様子を知っているからこそ、やはり今日の彼は少しおかしいと感じる。

 声だけでもかけておいた方がいいかもしれない。なんでもなければそれでいいし、ダメそうなら彼の宿泊する部屋に案内すればいい。

 ひとりになった瞬間を見計らって声をかけた。

「月城様、少し休憩されてはいかがですか?」

 彼はハッとして私の顔を見た。

「鈴木さん……まいったな。ばれないようにしていたつもりなんだが」

 彼も声をかけたのが私だとわかって、少し緊張が緩んだようだ。

「おそらく他の方には気付かれていないでしょう。よければお手伝いしますが」

「助かる。部屋は――わかるよね」

「月城様のお部屋はもちろん存じ上げております。車いすは必要ですか?」

「いや、そこまでじゃない。だが少し支えてほしい」

 思っていたよりも、事態は深刻なようだ。

「かしこまりました、では会場を出るまで頑張ってください」

 私が支えないといけないほどなのに、周囲にそれを悟らせないよう堂々としている。

 彼も他の参加者に心配かけたくないという気持ちが大きいのだろう。

「鈴木は会場を抜けます。後のことは明石課長に指示を仰いでください」

 担当のスタッフにこの場を離れることを、インカムで伝える。

 他のパーティーが終了し、宴会部の明石課長が配置についた。私の仕事はここまでだから、月城様を部屋まで送ったら今日の仕事は終わりだ。

 具合が悪いはずの彼はまだ挨拶をしている。その様子から体調不良だとは微塵も感じられない。

 私はすぐに彼を部屋まで案内できるように、会場の外に出て待つ。
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