政略結婚した顔も知らない夫に気づけば溺愛されていたようです~御曹司は甘く攻めて逃がさない~
「待たせた」
「いいえ、こちらへ」
彼に注意を払いながら、行先を案内する。
幸いタイミングよくエレベーターが来て乗り込んだ。扉が閉まったその瞬間、彼が壁にもたれて苦しそうな表情を浮かべた。
階数ボタンを押して、すぐに彼の隣に立ち、腕を掴む。顔が真っ青だ。
「体を預けてください」
「いや、大丈夫だ」
「遠慮なさらずに、私結構力持ちなので」
彼が負担に思わないようにできるだけ明るく言う。すると彼は観念したかのごとく素直に私の言葉に従ってくれた。
「ははは、では甘えさせてもらう」
私よりも大きな身長の彼を支えるのは大変だが、ここで倒れられたら困る。
「すみません、男性スタッフが別件対応中でして。すぐに動けるのは私だけなんです」
待っている間に、客室係の男性スタッフに応援を頼んだのだが、全員手が空いていなかっただった。それならば顔見知りである私が、月城様に付き添った方がいいという結論になった。
「いや、君でいい。歩けないほどではないから」
「もう少しです。頑張ってください」
私の声に彼の返事はなかった。
部屋の前に到着後、ルームキーを彼から預かった私は、解錠して部屋の中に入る。
「ベッドまで頑張れますか?」
「いや、ソファでいい」
正直私も限界だったので、とりあえず彼の言う通りソファに横になってもらう。すると彼は「ふぅ」とため息をつき、額に腕をのせたまま動かなくなった。
さてこれからどうしようかと思い、とりあえず水を準備する。
「必要であればお医者様をお呼びすることも可能ですが、いかがしましょうか?」
「いや、デスクの一番上の引き出しに入っている鎮痛剤を取ってもらえるか?」
「はい、かしこまりました」
私は急いでデスクの引き出しを開ける。その中の薬を取り出し、彼のもとに水と一緒に運ぶ。
「こちらでよろしいですか?」
「あぁ、すまない」
体を起こす彼を手伝い、薬のシートから錠剤を彼の手のひらに出す。
彼はすぐにそれを口に含み、水で流し込んだ。
その後、彼はスマートフォンを取り出し操作した。
「秘書がすぐ来るから」
ソファに横たわり、目元に腕をのせている。
「差支えなければそれまで待たせていただきます。なにかあったら困りますので」
「君の仕事は?」
「今日はもう終わりなのでお気になさらずに。秘書の方に状況の説明をして帰ります」
「悪いな、助かる。その辺りで座って楽にしていて」
ほんの少しのことだし、もし容態が急変したら大変だ。薬が早く効けばいいのだけれど。呼吸が浅くて苦しそうだ。
すぐに飲めるように新しい水を用意したり、ブランケットを取ってきて彼にかけたり。そうしているうちに、今できることがなくなった。
立っているとその気配で彼が気になるかと思い、最初に言われた通り少し離れた場所にある椅子に座って秘書の到着を待つ。
その時、小さな折り紙をポケットにしまっていたのを思い出す。ホテルに来て暇そうにしている子どもの気を引くために入れておいたのだ。