撮影スタジオの片づけをささっと終わらせて、 「疲れたー……」と椅子に座り込む。

スマホを取り出してSNSを開くと、通知がひとつ。

≪mio-motiduki13 があなたをメンションしました≫

その文字をタップすると、 さっき撮ったツーショット写真が画面いっぱいに表示された。

≪撮影行ってきました! デザイナーの柚希さんとのツーショット!≫

そのコメントを見た瞬間、思わず笑顔になる。

(……嬉しい)

コメント欄を開き、指が自然と動いた。

「今日は撮影ありがとうございました! ツーショットもありがとうございます!」

送信すると、すぐに返信の通知が来た。

開いてみると——

≪こちらこそです! ドレス、本当に素敵でした。 またぜひ着せてください!≫

胸の奥がじんわり温かくなる。

(……よかった。ちゃんと伝わってる)

徹夜で縫ったところも、調整したラインも、 全部、誰かに繋がっている。

その実感が、疲れた身体にそっと灯りをともした。

スマホを握ったまま、柚希は小さく息を吐いた。

そのとき——

「……何ニヤニヤしてんの」

背後から、低い声が落ちてきた。

振り返ると、蒼が片づけを終えた機材バッグを肩にかけて立っていた。

いつもの無愛想な顔。

でも、ほんの少しだけ眉が上がっている。

「べ、別にニヤニヤなんてしてないし!」

「してた」

即答。

むかつくけど、否定できない。

「褒めてくれて…また着たいって」

「……そうか」

蒼は短く答えた。

それだけ言うと、視線をほんの一瞬だけ柚希に向けて——

「片づけ終わったから帰るぞ」

ぽつりとそれだけ残して、 スタジオの奥へ歩いていった。

取り残されたような静けさの中で、 柚希はスマホを胸に抱えたまま、 さっきより少しだけ深く息を吸った。

「片づけ終わったから帰るぞ」

そう言い残して蒼が歩いていったあと、 柚希はスマホをバッグにしまい、ゆっくり立ち上がった。

スタジオの外に出ると、夜の空気がひんやりと肌に触れる。

一日中ライトの熱にさらされていた身体には、その冷たさが心地よかった。

出口のところで、蒼が待っていた。

壁にもたれ、腕を組んで、無表情。

「……遅い」

「今、出てきたところなんだけど」

「はいはい」

相変わらずの雑な返事。

でも、置いて帰らずに待っているあたりが、蒼らしい。

二人で並んで歩き出す。

夜の道は静かで、足音だけが響く。

「次の撮影、来週だ。……無理すんなよ」

「……うん」

短い返事しかできなかった。

胸の奥が、じんわり温かくなる。

蒼は何も言わず、歩幅をほんの少しだけ柚希に合わせた。

その小さな変化に気づいたのは、 きっと柚希だけだった。

疲れているはずなのに、心だけは軽くなる。
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