ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違いすぎました。
「うっ……」

 突如視界がぐにゃりと曲がるような、そんな感覚と騒がしさが脳内で共鳴する。咲良はそれらに耐え切れず座り込んでしまった。

(こういうの慣れないからか気持ち悪い……)
「いかがなさいました?」

 たまたま近くを通りがかった中年の女性看護師が声をかけてきた。
 少しだけ安堵感を覚えた咲良はほっと息を吐く。しかし話そうとすると今度は緊張感が喉奥から迫り上がってきた。

「えっと、春日……先生はどちらにいらっしゃいますでしょうか? 私は、その……」
「もしかして奥様でいらっしゃいますか!?」

 突如柔和な雰囲気が一変する。咲良はえっ!? と肩をビクつかせながら看護師を見ると、彼女は目をまん丸に見開いていた。

「すぐに春日先生お呼びします!」
(なんだか大事になってきた!?)

 しばらくして白衣に水色のスクラブ姿の秀介が、白衣にスーツ姿の男性医師達数人を引き連れて走って来た。
 と、同時に周囲にいた人達の目線が秀介へ釘付けとなる。

「咲良! どうしたんだ?!」
「あっ先輩……! ごめんなさい、えっとお弁当忘れてたから、持ってきたんですけど……」

 申し訳なさが胸いっぱいに広がる。そんな咲良が抱きかかえていた手提げ袋に秀介が触れた。

「それ、探してたんだよ! ああ、持っていくの忘れてただけかぁ……よかった~~」
「よかったです! こちらどうぞ」
「ありがとうな咲良」

 手提げ袋ごと秀介に手渡した瞬間、彼は片手で咲良を抱き寄せ、更にはちゅ、と口づけを交わしてくる。

「!」

 針にあちこち刺されるような視線を覚えたので秀介の胸に手を当てて距離を取ろうとしていたのと同時に、咲良から逃げるように秀介の唇が離れる。

「ちょっと! こ、こんな所で……!」
「いいだろ、これくらい」
「いやいや! 恥ずかしいですって!」
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