ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違いすぎました。
◇ ◇ ◇

 春日先輩。本名は春日秀介。咲良の初恋の相手で片思い相手であり……長年妄想を募らせてきた相手である。ここだけの話、咲良の書いてきた同人誌のうち、8割が彼の妄想を形にしたものだ。
 さらさらとした黒髪ショートヘアに、凛々しく端正な顔立ちはまるでアイドルさながらの容姿。はにかむ姿は煌めきに満ち溢れていて、クラスメイトと談笑する姿をはじめ一挙手一投足に目を奪われていた。

 初めて彼を見たのは中学1年生の時でしかも入学した次の日。アイドルのような人気ぶりを誇る秀介へ一瞬で一目ぼれした。

 脳裏には白い歯が爽やかな笑顔が浮かび上がる。咲良は彼とほぼ関わった事はないので、どのような性格かなど詳しくは知らない。
 それらも全て己の妄想でカバーしてきた。今手元には何冊かはあるが、全部揃っていないと咲良にとっては意味がない。

 気がつけばリニューアルされたばかりの無人駅の前にあるベンチに到着した。息を切らした咲良は肩を上下に動かしながらベンチに座る。

「はあ……はあ……ぐすっ、ひっく……なんでよ、捨てるとかあり得ない……!」

 咲良はこれまでアンチコメントを貰った事は幾らかあるが、いずれも作家なら通る道だとして該当アカウントをブロックして終わりにしてきた。
 しかし、今回は理由が違う。身内から直接罵倒された上に処分されたのだから、ショックは比べものにならないくらいに酷い。

「ぐすっ……ぐすっ……」

 何度も手の甲で涙を拭いても中々涙は止まってくれなかった。

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